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シドウは首をうわずらせ、目を閉じて待っていた。それがあまりに扇情的で、机にトレイを置くなり、気がつくと僕は鈍く尖った鼻頭にキスをしていた。しなやかな厚い皮膚と、その奥のもろい硬質さを感じる。
本当に無意識の行動だった。僕ははっと正気を取り戻したように、自分でも驚くくらいの機敏さでティナのほうへ振り向いた。ティナはよりによって、いつものアルカイックスマイルをたたえて僕を見ている。
「朝から大胆なひとですね」
怖いくらい平坦な声だった。あるいは、本当にひとつも動転してないのかもしれない。いっぽうで僕は、全身の毛穴がどっと開くのを感じている。
どうしてこんなことをしたのだろう。激動する感情が思考を追い越して、それを自覚するころには行動が終わっていた。何より自分のしたことが分からなくて、困惑のあまり立ち尽くすほかなかった。
「でも、気持ちは分かります。シドウは綺麗ですから」
ティナがさらに口元を引き上げ、平坦だった声色と微笑には幾分かの情緒が含まれた。明瞭すぎる眼球の奥で、僕の思考が凍りつくさまを余すことなく見透かされた気分だった。




