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……


Keep the home fires burning (暖炉を灯して待っていよう)

While our hearts are yearning (想い続けている間)

Though your lads are far away... (彼は遠くへ離れていくけれど)























 彼はふたたび、そして突然わたしの目の前に現れた。


 立春も過ぎて少し経つけど、身を切るような寒さはまだ尾を引いていて、窓の外には蒼鉛色の雲がどんよりと広がっている。ずいぶんと雪は降っていないけど、このまま桜の季節を迎えることはないだろう。雪国の春はまだまだ遠い。

 面会室に入ると、わたしのほうへ、ストーブの暖気が吹き抜けてくる。わたしのとは別に、小さな物音がして、目線をやるとすでに職員が一人座っている。壮年の女性だった。彼女はこちらを見ていなかったけど、わたしはとりあえず会釈をひとつくれた。

 席につき、ここでわたしはようやく、向かいあわせに座る彼の目を見た。



「どうだ。最近調子は」


「……悪くはないですよ。期待してましたか?」


「そんなわけないだろ。純粋に、元気そうで嬉しいさ」


「どういうつもりですか?」


 男はすこしおおげさに、息をひとつついた。


「……なあ、アレクサンドラ。お前は認めてないだろうけど、俺はお前の父親なんだ。今日お前の顔を見れて、心底安心してるんだぜ。それに、色々聞きたい事があって当然だろ?」


「それから、一応だが知らせがあるんだ。……諒人だが、あいつ生きてるよ」


 わたしは眉をひそめた。


「生きてるっつっても……いわゆる植物人間ってやつだ。小脳にでかい障害があって、回復の見込みはないらしい」


「もっとも普通なら即死なんだろうが、当たり所が良かったのと、あの銃はもともと熊とか猪だとか、いわゆる害獣だな。ああいうやつらへの威嚇に使うもんだからな」


「……そうなんですね」


「だからってお前を許すつもりはないし、同情する余地もあるとは思ってないが……なあ」


「どうしてあんな事をした? あいつらに恨みがあったのか?」


「だからって、何も、殺すことはなかったんじゃないか?」


「君房さん」


 今度は私がため息をつきたかったけど、さすがにそれはしなかった。



「……あなたの言うとおりです。私がしたことは、到底許されることではありません。正しいことでもありません」


「正しいことでないことを理解した上で、それでも私は迷わず、彼らを殺しました」


「悪い、と思って行われる犯罪は、存在しません」


「……私は彼を愛しているから、そのために殺しました。愛している人に愛されないということは、死んでいるのと同じです。彼は私を愛してはくれませんでしたが、最後に私を抱いたまま果てました」


「彼は安らかな顔をしていました。まるで気分のいい夢を見ているようでした」


「それを見て胸がすくような気分になりました。私にはもうこれ以上の幸福はありません」


 話し終えて、一瞥した男の顔は絶望と言って良かった。

 窓の外を見ると、いつの間にか、ずいぶんと暗い灰雪が降っている。


「人格者の小川さん」完結です。

この話はあと書きのつもりで書きました。蛇足だと思いましたが、書かなければこの話は物語として成立しませんでした。ひどい完成度の物語です。

それでも、1年半以上に渡って読み続けてくださった方たちには感謝の気持ちでいっぱいです。ご期待に沿うことはきっとできませんでした。ごめんなさい。

ありがとうございました。

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