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……


 たぶん飛び起きたに近かったと思う。恐ろしい夢を見ていた気がするけど、今この瞬間、僕が覚えていることは妙にリアルなこめかみの感触だけだった。痛いくらい喉が乾いている。無意識に大きく息をつき、僕は湿りついた背中を起こした。

 ティナの姿はもう無かった。どうやら先に居間のほうへ出て行ったのだろう。

 居間に入ると――不思議というか、あり得ないことだけど――二人が食卓に着いていた。


「おはよう、お父さん」


 愛想の良い声がする。なぜだか、背筋に冷たいものを感じた。シドウはこちらを見向きもせず、うつむいたまま正面に座っている。こっちはいつも通りなのだけど。


「ご飯、できてるよ」


「……え、ああ……うん」


 僕はいまいち、自らのロール (役割)を把握できなかった。今は果たして、どんな「現実」の中にいるのだろうか、もっとも、ほんとうは考える必要すらないのだろうけど。すこし分かったことは、今までよりほんの少しだけ、僕は「ミッシング・ピース」でなくなりつつあるということだ。僕がこの家に留まるということが、しだいにできなくなってきている。それが僕にとって何を意味するのか、なんとなく分かるけども、だとしても僕は――ここにいることを選択し続けたいのだ。


 本当に、なんて長い回り道だったのだろうか……つまりのこと、僕の理解は「確信」に変わった。その上で、僕の気持ちが変わることはなかった。自由に動かせる腕があったところで、僕は自分を殺したりはしなかったし、僕に足があったとして、逃げ出すこともありえなかった。

 そもそも、何も思い出せないし、目覚めても僕には何も無いのだ。だとしたら、果たして夢と現実の間に、明確な違いなんて存在するのか? だから、これは紛れもない「現実」なのだ。例えるなら、塀の中で一生を終える人間が、格子窓から覗く外の景色なのだ。僕を閉じ込めているのは、この家そのものであって、僕自身の肉体でもある。



「寝苦しそうだったけど、大丈夫?」


 もう考える必要はない。

 僕はただ、すべての行く末を傍観することにした。誰も僕を殺そうとはしない。だから僕は死なないし、彼女たちがいるから孤独さもない。充足以外の何物でもないのだ。


「……うん、大丈夫だよ。覚えてないけど、たぶん悪い夢を見ていたんだと思う」


 この夢は終わらない。

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