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よく見ると、彼女はすでに泣くことをやめていた。そして、ふたたび違った目つきに変わっていた。それはひどく懐かしい目で、「僕」はさいしょ思い出せなかったけど、すぐに2年前、彼女が嵐の中あらわれた夜のとき見たそれに、そっくりだと気づいた。あのときの僕は「虚脱」していると思ったけど、いまそれが「諦観」だったことに気づいた。「僕」には経験がないけど、なにもかもに期待も関心もない状態だと、ひとはこういう目になるのだということを知った。
もしかしなくても、「僕」からなにかを察し取ったのだろう。
「……でも、僕もだよ」
けれど、「僕」はつぎに、あえて彼女の予想と全くうらはらであろう言葉を口走っていた。
「え……?」
「僕も愛してる」
まだ、彼女はなにか物言いたげだったのだけど、それが「僕」に伝わることはなかった。




