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それに気づいたのはあまりに時間が経ってからだった。
かつて人々がジフテリアを患った時代のことでいうと、いまの行為はおおかた、貧乏なリーベンクイが鉈を隠し持って馬に近寄るようなものだったかもしれない。齟齬のないようにいえば、時間の経過こそ僅かだったけど、いま「僕」が背後から切りつけられようとしている状態にあるなら、この適応までのずれは致命的だろう。
なにが言いたいのかといえば、さっきの彼女の行為にはこの上ない「目的」があったのだ。「僕」への確認事項を済ませて、それを実行するために部屋へ戻った。
間違いなく止めるべきだっただろう。でも、どういうわけか、今すぐ彼女の部屋へ押しかける気力がひとつも湧かない。「僕」はもうひとつ、彼女が真実へ辿り着くのを望んでいたかもしれないことにも気づいた。
軋轢するものが溶けきって、ようやく僕の足は歩きはじめた。ノブに手をかけたときの気分は奇妙なくらい沈着していて、あるいは投げやりといっていいかもしれない。欝々ともしていないのがもっと不思議だった。




