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時計の針が加速していくことにあせりはなかった。ギャップを埋めることがなによりも先決なのだと思った。いちど腰をすえて考えてしまえば、どうということはないのだ。結論はすぐに浮かんだ。昔誰かが言ったことだけど、たいていの問題なんてコーヒーを一杯飲み干すあいだに思い浮かぶものだ。なによりも大事なことは、それを実行できるかどうかだ。
導き出した答えはまちがいなく、僕を試していた。言ってしまえば、それは「自己暗示」に他ならない。意図せずとも、潜在意識が僕を違う世界へいざなったのが「明晰夢」だけど、いまは僕自身が潜在意識を意図する世界へ引き込もうとしている。
とうてい現実的な答えじゃない。だからといって、僕にほかの選択肢はなかった。そういう意味でも、この回答はすぐに浮かんだ――というより、どうせはじめから分かりきっていたのだと思う。そして、「明晰夢」のなか、僕は自らの本心をまざまざと自覚するに至ったのだ。
僕はティナに対して、どこまでも利己的であり続けた。シドウが僕にとって願望であったとすれば、ティナは恋人に他ならなかった。娘のことを愛していたわけじゃない。僕ははじめ、彼女へ娘の存在を投影して、そのくせ彼女に惹かれていったのだ。
シドウの唇を奪った理由もそこにある。彼女が何も言わないことはよく知っていたし、確信もあったけど、僕はそれでも不安で仕方なかったのだ。夢の中の出来事であることを踏まえたうえで、心底浅はかな行為だと思う。




