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「彼女」への摂食に慣れるということはとうとうないのだろうと、たぶん確実な予感めいたものを感じていた。一緒に住みはじめたばかりのころみたいに、ビーカーの中身をこぼすことはなかったけど、背筋の震えるような感触はいつまでも付きまとってきた。いつもどおり「僕」は早足で食卓を横切って、台所でしばらくじっとしていた。吐息の喉でかすれる音が、いつもよりいっそう鼓膜に反響している。
「なに作るの?」
「ん?」
一瞬どこから声がしたのかわからなかったけど、あたりを見ると流し台のあたりから、こんどはティナが目から上だけを覗かせていた。食卓の椅子に座り、そこから「僕」のほうを見るかっこうだ。「僕」は小さくうつむいた。
「そんな面白いものじゃないよ。おとといと同じ、ハンバーグだよ」
「あ、もしかしてこないだの余り?」
「そうそう。凍らせてとっといたんだ。ほんとはお昼につまもうと思ってたんだけど」
「そっか。手伝おうか?」
質問だけど、答えを用意する必要はなかった。いつのまにか、彼女はすでにかっぽう着を羽織って「僕」の隣へ並びかけている。ちなみに、かっぽう着は中学生のころ、家庭科の時間で作ったらしい。そんな甘いつくりじゃすぐほつれて使えなくなるよ、なんて意地悪を「僕」がかまして以来意固地に使われつづけ一年が経つ。案の定すでにぼろ雑巾か使い古したモップのようなありさまだけど、燃えるゴミとして雑草の養分になるよりは幾分かましだったのだろう。なにより、幅広の野暮ったい格好をしたティナが微笑ましい。
「ありがとう。野菜切っといてよ」
目線をくれたわけではないけど、彼女が頷くのを感じた。




