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行為の後の気だるさはいつでも、魔の刻だったと「僕」に思い知らせ、快楽のつけをせがむみたいに気持ちを鎮めていく。そう長くはない、むしろほんの数瞬のあいだだけ、「彼女」を好きでない「僕」があらわれる。「彼女」のねだるような口づけに嫌悪すら覚えるし、もし、ついさっき、数分前にタイムリープなんてことができたとすれば、「僕」は迷いなく「僕」自身の顔面をぶち抜いてみせることだろう。それだけ「僕」はセックスが嫌いだけど、愚かな本能に誰も逆らうことはできない。まして「僕」たちのような、特別な事情を持つ若い夫婦にとっては、太陽の沈まないころからでも毒気のような衝動に駆られることはままあるのだ。深く息をついて(とらえようによってはため息のように聞こえるかもしれない)、「僕」は「彼女」から離れた。ピロートークという言葉があるけど、あれは痴呆かうつ病患者がやる行為だと僕は信じて疑っていない。はたして「ごめんなさい」以外に、男の口から出る言葉があるのだろうか?
「先、シャワーしてきなよ」
これじゃ悪循環だ、と思っていても、どうしたって感情の起伏には抗えないたちだ。毎度こんなことを繰り返してるのに、まったくもって学習しないし懲りない。もしかして「僕」みたいなやつだからこそ、ピロートークに一定の効果があるかもしれない。
「彼女」は「僕」に背を向けたから、きまり悪い顔の「僕」は誰も見てはいないだろう。遠ざかっていく足音を聞きながら、そんなことを考えた。




