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ちょうど一年後、シドウは僕との子どもを身ごもった。もちろん、彼女を取り返しのつかない状況へ追いやったことへの申し訳なさはあったけど、それをとうに差し置いて、僕の人生に明快な希望が射したように思えた。また今までの僕がずっと、徒らに浪費した時へ想いを馳せるだけで、自分の足がとうに歩みを止めてしまったことにもようやく気がついた。
「あなたに何もしないではいてほしくない。たったひとつ、あなたの思うように、この子を愛してだけほしいの」
彼女はそうとしか言わなかった。それが僕を信じてなのか、本当にそれだけの覚悟があったからなのかはわからないけど、とにかく僕は少しの収入を3人の生活費にあて、普段の子どもの世話を受持つことにした。産まれてきたその子を、僕たちはティナと名付けた。
幾度めかの紅葉がすっかり散り落ちて、それも白く見えなくなる季節のころ、僕たちはあの公園の近くの古い家を譲り受けた。もともと家主は僕の叔父さんで、昔からなにかとシドウとよく遊びに来ていたのだけど、シドウがやけにこの家の雰囲気を気に入っていたのだ。2年ほど前、叔父さんが「もうすぐ新しい家を建てるから」と言ってこの家を預けてくれたのだけど、叔父さんが末期の肺癌で入院するようになってから、この家は僕の所有物になった。彼に癌があることは、ずっと前から分かっていたらしい。




