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あとで聞いたことだけど、シドウは僕に一目惚れだったらしい。むろん、ピート・バーンズ並みの美貌は当時からなかったし、まして学生時代の僕はおしゃれの気もなく陰気で地味な少年だったはずなのだけど、どこからか僕の学年やクラスを探り当てて、翌日のお昼休みには僕を呼びつけてみせたのだから本当なのだろう。
言うまでもないことだと思うけど、僕は嬉しくてたまらなかった。舞い上がってたといっても間違ってない。いままでの女っ気とはまるで縁のない人生が、その日を境にがらりと変わったのだから責められないはずだ。しばらくの間こそ、心の奥底でなにか騙されてるような気がして、いくぶんか素っ気ない態度を取り続けた気がするけど、冬を越えて、制服のブレザーを畳む季節のころ、彼女は僕に好きだと打ち明けてきた。それから僕は自分自身の残酷さに気づいて、彼女を試すことはやめようと思った。
彼女は僕よりもひとつ年上だった。僕に経験がなかったこともあるから余計かもしれないけど、恋愛に長けたひとだと感じた。恋愛だけじゃなく、なにかと人間関係を作ることが上手いのだと思う。いわゆるクラスの人気者だった彼女は、あらゆる面で僕とは正反対の人間に思えた。
自然と僕は、彼女との釣り合いを求めるように自分を繕っていった。外見に気を使うようになって、ふだんから明るく振るまうようにつとめてみた。間違いなくいい変化だったと思ったし、シドウも服のセンスこそ褒めてくれたけど、無理をしているのは見抜かれていたらしかった。
ある日とつぜん、学校へ向かう足が動かなくなった。精神的な理由なんだけど、比喩でもなんでもなく、まるで根が這ったみたいに前へ進むことを身体が拒んでいた。その時こそべつに、心のどこかで学校に行きたくないと思ってたわけではなく、むしろ充足すら感じていたのにだ。
1日休んでみると、さらにうんざりするほど学校へ行く気が失せた。それからは毎日、シドウが放課後に僕の家に来てくれて、しばらくの間抱きしめてくれた。シドウに「ごめんなさい」と言われるたびに、やり場のない気持ちが滲んでくるのを感じていた。
結局僕が学校へ行くことはなかった。適当に近くのコンビニで働きはじめたけど、大学へ行くつもりが僕に毛頭ないことを理解するなり、両親は僕の存在をなかったことにしたがった。無視しようものなら部屋に放火されそうな勢いだったから、泣く泣く僕は家を出た。なによりも情けなかったことは、それからあらゆる意味でシドウに依存してしまったことだった。




