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僕はさっき手に取った絵本のことを思い出した。あの内容はたしかに暗示めいていて、考えてみればあの夢こそが「ミッシング・ピース」に他ならなかったのかもしれない。物語は終盤、「ピース (Piece)」が「ラジオ」のもとを離れ、ひとりで旅をはじめようとする。でも、「ミッシング・ピース」の名の通り、彼はもともと「ラジオ」の一部だったから、その形状はいびつで転がることもままならない。くじけそうな彼は「ラジオ」に泣きつくけど、「ラジオ」は彼に「角は取れて、丸くなるものさ」と諭す。
きっと「ラジオ」の言葉は、彼にとってひどく冷たくて、残酷なものだったと思う。だけど、それこそがいまの「ピース」にもっともふさわしい言葉だったであろう。それが突き放すような意味だったとしても、まちがいなく彼のためを想って言った言葉なのだ。
いま確かめることも、証明することも叶わないけど、シドウが僕へ最後に残した言葉はきっと残酷だと信じていたい。僕があの言葉の意味を知れたなら、もう少し早く「現実」にたどり着けたかもしれない。もっとも、ひとりで旅をはじめた「ミッシング・ピース」とは違って、僕はいつまでも遡行していて、ずっと眠っていられたらどれだけよかっただろう、と本当に思っているのだけど。
ふと顔を上げ、眠るシドウの身体を見た。すっかり体温を失った僕の手のひらは、彼女の首元をなぞって、うなじを持ち上げた。
彼女の唇は刺すように冷たくて、鉛の味がする。




