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鈍い金切り音がすると、僕の方へ、暖炉で温めたであろうぬくい空気が吹き抜ける。それとともにいま、玄関の向こう側には見知った顔があった。
「……おはようございます」
よれの見当たらないブレザーにスラックス姿の、背の低い少女だ。名前はティナと謂った。扉が開かれると同時に、彼女のショートボブは揺れ、緩く下がった目尻がよく見えた。
「おはよう。お邪魔します」
半開の扉のふちへ僕が手をやったのを計らうように、彼女は廊下まで後ずさった。
この家のここ一間だけでなく、室内において全体的に言えることは、「すべてが小暗がりにある」ということだ。飾り気のない白単色の壁紙や薄ぼけたフローリングをはじめ、その家にあるものは須く、存在じたいに影を落としているように見える。そして、不思議なことにその要因は少なくとも、ただ陽が差さないからというだけではない。何らかの要素が確固としてあると断言できるのだ。
靴を脱ぎ、廊下へ上がると、まっさきに床板のきしむ音が立った。なんとなくティナに目配せをしてから、リビングへ進んだ。




