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足音が近づいて、止んだ。どこか意気地にすらなっていた僕は、ほどなくして感じた左頬のざわつきで、ようやく事態を察しとった。
「……どうしたの?」
ソファーの後ろに座り、シドウは顔を僕の真横からのぞかせている。かすかな髪の感触が伝わって、僕は思わずまた、意味のない質問を投げかけた。むろん答えはない。彼女の目は黙々と、ただ白黒の世界を追っている。ようやくして思考を取り戻した僕は、おどる心をかくせないまま、白いすだれの合間からそのようすを盗み見ることにした。
こうして至近距離で見つめるシドウは、やはりつくりもののように端正だ。まばたきや、あるいは呼吸でかすかに動じる端々がラテックスの象りみたいに、柔和なうつろいを見せる。それらすべてが、みずみずしさはないけど、緻密でまっさらな肌に内包され、まるで精巧なグラフィックを賞翫するかのような錯覚に陥らせた。
ふいにこちらへ向いた彼女と、目が合う。でも僕は身じろぐことなく(ひょっとしたらほんとうに映像を見ている気分なのかもしれない)、まるで吸い込まれるように彼女を見据えた。




