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言うまでもなく僕は嬉しかった。行為の容認というだけじゃなく、彼女は今こうして、たしかに僕へ歩み寄る姿勢を見せてくれたのだ。いま彼女は淡々と、盤上の駒を進めているに過ぎなくて、それはセルロイドで繕った表情のもと行われる作業だけど、裏付けされた情緒を僕は知っている。意志疎通といえばあまりに仰々しいけど、それだけ、彼女との「繋がり」に、僕は心踊る気分だった。
正直なところ、ゲームどころじゃない。容赦なく僕の布陣を荒らしまわる彼女が、今は全身を以ていとおしく感じた。
「……僕の負けだ。シドウはチェスが上手いな」
終わってみれば完敗だった。途中で我に帰ってからは、必死に盤面を立て直そうとしたけど、すでに「詰み」で、なすすべなくあっさりと決着がついた。
シドウは息をついて、駒や一式をそのままに、また腕を組みつっ伏した。ちょうど授業中に居眠りをする体勢だ。いつもは食事のあと、そのまま昼過ぎまで二度寝をしているので、ここからはいつも通りの生活リズムを刻むつもりらしい。
「……はは」
僕はカーディガンを脱ぎ、彼女の背中に羽織りかけた。ちなみにこれもまた、いつもの日課である。




