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空になったビーカーのくちを布巾でなで上げて、僕は足早にキッチンへ戻った。あの状態でいたなら、だんだんと正常な思考ができなくなってくる気がしたからだ。
「ふー……ふー……」
キッチンの吹き抜けから覗く彼女は、体をつっ伏して俯いていた。僕に推し量ることはできないけど、シドウにとって摂食は体力を消耗するらしい。終わったあとはいつも、肩を使って、キッチンからでも聞こえるような激しい吐息をしている。ティナが席を立ち、宥めるように彼女の背中をゆっくり撫でていた。
この家をとりまく環境に疑問を抱くことは多いのだけど、僕にとってそれは委曲尽くすまでもなく、ひとつの地点に帰結する。
彼女はどうして、口に針金を通すという難儀な選択を実行したのだろう……やむなくやったことじゃないのは明白だし、かといって行為に対するメリットが特別見当たるわけでもない。強いて言うなら、あの針金はただ、彼女の「弱さ」を助長しているにすぎない。
僕は彼女が持つ魅力の大部分を担うのが、すなわちそれであることには気づいていた。もしかしたらさっきの愚行は、僕がその「弱さ」を感情の根底でいとおしく思ったからかもしれない。




