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 誰にも悟られないくらい、幾度かの小さな深呼吸で、僕の動悸はようやくなりを潜めた。

 だけどそれに対して、この食卓はいま、起こるべき反響が何かに吸収されたように静かだった。ティナのことだけではなく、この空間自体が揺れ動く水面の中心にあるかのような落ち着きがある。

 それは僕にとって、いわば行為を容認する空気の穏やかさでもあった。振り向いてティナに弁明する気にはならなかったけど、手元の震えは収まったし、今度はあからさまな吐息のすえ、僕はビーカーに手を伸ばすことができた。

 シドウの鼻孔に左手親指を添え、そこへ注ぎ口をあてがう。僕は少しずつ、ゆっくりビーカーに角度を付けていった。


「んぅ」


 シドウが喉を鳴らした。さっきの今ということもあるけど、彼女と接するとき僕は、えも言われぬ背徳感に襲われる。何だかとんでもなくおかしなことをしているんじゃないかとか、ただするべきことをしているだけでも、世間体に対する一抹の不安を感じる。

 それくらい、彼女に際して少なからず起こす動揺を、僕は隠すことができなかった。そしてその本質が理解できないまま、むずむずとした痛みを持て余している。

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