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リセット  作者: 坂下良吾
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大学3回生までは、自分はお金持ちになるのだと信じて疑わなかった。

俺はその他大勢の人間とは違う。

根拠のない自信が常にあったし、その自信を糧にして様々な学生活動を行ってきた。

周りからは「意識高いね」とか「活動的でかっこいい」とか言われたもんだ。

しかし大学4年生で現実に向き合うこととなる。

就職活動だ。

俺は有名企業に行って然るべきだという謎の自信があったが、蓋をあけてみると全敗。

エントリーシート(ES)を提出した企業は100社近くあったが、ESが通過した企業がその半分。

その後の面接は1次でほとんど落とされてしまった。

ある面接官からは、「遠藤さん。あなたは論理的思考力がないですね。そして思考が浅い。これでは就活は苦労すると思います。」と現実を突きつけられたものだ。

わかっていた。

わかっていたけれど、それを認めたくなかった。

自分の頭の悪さを認めず、承認欲求の赴くままに、意識高い自分を演じて様々な活動をしていただけなのだ。

どれだけ意識が高くても友人や知人からは決して、「賢いね」とか「頭いいね」といった文言を聞かされたことがなかった。


就職活動を通して、社会における自分という商品の価値の低さがわかった。

そこから俺は、「やりがい」「社会貢献」といったものを軸に企業を探し、小さなデイサービスの会社に就職した。

しかしこれも、大企業に就職できない自分を認めきれず、給料という評価軸ではなく、やりがいという別の軸で秀でようとしただけである。

俺は負け犬だ。

負け犬なんだ。


大学卒業後、内定したデイサービス「虹色」で仕事を始めた。

手取りはたったの15万円。

家賃補助なし。

住まいが京都市の木造アパートだったので、家賃が大体5万円ほど。

その他固定費を引くと自由に使えるお金はほとんどなかった。

それでも自分はいつかお金持ちになる、その他大勢とは違うと思っていたけれど、働きだして5年、手取りはいまだに15万弱であった。


就職して5年目の4月1日。

俺は京都駅の新幹線乗り場にいた。

新幹線に轢かれて死のうと思ったのである。

自分が認められないのはこの腐った社会のせいだ。それならば、あばよとこちらから身を引いてやろうじゃないか。

必死に考え、出た答えが自殺であった。

大学時代には、怪しい意識高い系サークルに入って、自分が生きる理由についてメンバーと話し合ったり、自己啓発系の本や映画を見ては、自分の生きる指針を立てたりしたが、結局最後に選んだ答えが自殺なんて本当に笑えてくる。

ホームから新幹線が到着する際の音楽が流れ、アナウンスが流れる。

駅員が「11時4分発、のぞみ123号東京行きまもなく到着します。危ないので黄色い線の内側まで下がってください」と棒読みで注意喚起している。

まさか乗客が身を線路に投げ出し、自殺するなんて思ってもいないのだろう。

もし俺が新幹線に轢かれて死んだら、今注意喚起している駅員は何かしらの処分を受けるんだろうかなんて、どうでもいいことを考える。

さぁ死のう。

飛び降り防止のスライドドアを飛び越え、線路に向かってジャンプする。

向かいのホームにいる女性の目が見開いている。

その隣のスーツ姿のおっさんは、あんぐりと口をあけたまま固まって動かない。

テレビで、人は死に際に周りの動きがスローモーションで見えるというのを聞いたことがある。

本当にそうだった。

新幹線はスローモーションでこちらに向かってくる。

ゆっくりと着実にこちらに近づいてくる。

近づいてくる新幹線を見た時、私は母を思い出した。

大学入学式の日、母親と2人で博多駅から新幹線に乗って京都駅に向かったっけな。

その新幹線でみた母の涙。

「辛かったらいつでも帰ってきていいけんね」

母はそう言って涙ながら私に話しかけた。

なんでこんなこと今になって思い出すんだよ。

もっと楽しかったこととか浮かんでこないもんかね。

涙を浮かべたその瞬間、私の視界は一瞬にして真っ暗になった。




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