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近江の国友屋庄左衛門でおます  作者: 双鶴


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7章

八幡の町は、堀を中心に繁栄を続けていた。荷船は絶えず往来し、京や大坂から江戸へと至る道筋に近江商人の姿が見られるようになった。町筋には新しい店が並び、商人たちの声が響き渡る。市場には焼き魚の香りが漂い、味噌の匂いが鼻をくすぐり、布地の鮮やかな色が並び、人々の服装は華やかで、笑い声が町を満たしていた。子どもたちが駆け回り、商人の呼び声が重なり合い、町全体がひとつの大きな鼓動を打っているかのようだった。


庄左衛門は「三方よし」の理念を胸に、己の商いをさらに広げていった。京、大坂、そして江戸へ。商圏は広がり、近江商人の名は世に知られるようになった。江戸の町では、庄左衛門の農具や肥料だけでなく、麻布や薬種、油や呉服も求められた。日本橋の賑わいは壮観で、魚河岸には朝早くから鮮魚が並び、呉服屋の軒先には色鮮やかな反物が吊るされていた。町人たちは声を張り上げ、商人たちは値を競い合い、江戸の町は活気に満ちていた。


「この肥料で田が肥える」

「この布で娘を嫁がせる支度ができる」

「この薬で病が癒える」


人々の声は庄左衛門の耳に届き、彼の心を満たした。理念は町を潤し、世を育て、未来を照らす光となった。


しかし、商圏の拡大は試練をもたらした。利益を優先する商人との競合、遠方への輸送の困難、盗賊や嵐の危険。ある日、江戸の市場で利益だけを追う商人が声を張り上げた。


「安く売れば儲かる。客の喜びなど要らぬ」


庄左衛門は静かに答えた。

「儲けは一時のもの。人を生かし、世を潤す商いこそが未来を育てる」


その言葉に周囲の商人たちは耳を傾け、やがて「三方よし」の理念を共有するようになった。嵐に遭い船が傾きかけたときも、商人たちは互いに声を掛け合い、荷を守り抜いた。盗賊に襲われたときも、船頭や町人が力を合わせ、商いを守った。試練の場面ごとに理念は試され、しかし揺らぐことなく広がっていった。


江戸の町の情景はさらに鮮やかだった。日本橋の橋上には商人や町人が行き交い、魚河岸には潮の匂いが漂い、呉服屋の反物は陽光に輝いていた。町人の服装は華やかで、商人同士のやり取りは熱を帯び、町全体が活気に満ちていた。庄左衛門はその光景を見つめながら、己の誇りを確信した。商いは人を生かし、町を育て、世を潤す。武器商人としての過去は消え去り、近江商人としての未来が始まった。彼の誇りは町の誇りとなり、世の誇りとなった。


夜、庄左衛門は江戸の町の川辺に立ち、月明かりに照らされた水面を見つめた。安土の炎の記憶はまだ胸に残っていたが、ここには新しい光があった。水面に映る月は、誇りの象徴であり、未来への希望であった。


「焼け尽くした町の灰から、理念が芽吹き、商圏が広がる。これこそ新しい時代の象徴だ」


庄左衛門は静かに呟き、暖簾を掲げ直した。

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