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近江の国友屋庄左衛門でおます  作者: 双鶴


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3章

八幡山の町は、日を追うごとに活気を増していった。碁盤目状の町筋には新しい店が並び、八幡堀を行き交う船が物資を運び込む。米俵、布地、塩、油――生活を支える品々が町を潤し、商人たちは新しい商機を見出していた。


庄左衛門の店もまた、賑わいを取り戻しつつあった。だが、並べられた鉄砲は以前ほど売れなくなっていた。戦乱の影は薄れ、武器の需要は減少していたのである。彼は帳簿を開き、売上の減りを見つめながら深い溜息をついた。武器商人としての矜持を失った寂しさが胸を締め付ける。かつては武士たちが誇らしげに鉄砲を手に取り、彼もまた天下の軍需を支える誇りを抱いていた。だが今、その誇りは崩れ去り、虚しさだけが残っていた。


「武器を売るだけでは、町は育たぬ。人を生かす商いをせねばならぬ」


その言葉は、彼自身の心の奥底から湧き上がったものだった。安土の炎を思い出すたびに、鉄砲と火薬が人を殺し、町を焼き尽くす光景が脳裏に蘇る。疑念が芽生え、自責が心を締め付ける。だがその揺れの果てに、彼は決意を見出した。武器問屋から生活を支える商人へ――その道を歩むのだ。


庄左衛門は、鉄砲鍛冶の技術を活かして農具を作らせた。鍛冶場には熱気が満ち、鉄を打つ槌音が響き渡る。火花が飛び散り、焦げた鉄の匂いが鼻を突く。鍛冶屋たちは鋤や鎌を仕上げ、刃の光沢が炎に照らされて輝いた。鋤の刃は幅広く、土を深く掘り返すことができ、鎌の湾曲は稲を刈りやすいよう工夫されていた。火薬の原料である硝石は、肥料として田畑に用いられるようになった。農民たちはそれを手に取り、土を耕し、作物を育てた。


畑では、農民たちが汗を流しながら硝石を撒いていた。土の湿り気が足に伝わり、陽光に照らされた作物の芽が青々と伸びていく。子どもたちが畑を駆け回り、笑い声が響いた。農民は額の汗を拭いながら言った。


「これで田が肥える。子らの腹も満たされる」


庄左衛門はその言葉に胸を打たれ、農民の手を握った。温もりが彼の心を満たし、失った誇りの寂しさを溶かしていった。人を殺す商売から、人を生かす商売へ――その転換は、彼自身の心を救うものでもあった。


町の人々もまた、変化を感じていた。大工は「農具が売れれば家も建つ」と語り、鍛冶屋は「戦乱が減れば仕事も変わるが、農具なら需要は尽きぬ」と笑った。商人は「肥料を堀で運べば京や大坂へも売れる」と構想を語り、町の未来を描いた。群像の声が交錯し、八幡の町は新しい時代を迎えようとしていた。


夜、庄左衛門は八幡堀のほとりに立ち、月明かりに照らされた水面を見つめた。安土の炎の記憶はまだ胸に残っていたが、ここには新しい光があった。水面に映る月は、再生の象徴であり、未来への希望であった。


「焼け尽くした町の灰から、芽吹く田畑の緑へ。これこそ新しい時代の象徴だ」


庄左衛門は静かに呟き、暖簾を掲げ直した。


「三方よし――売り手よし、買い手よし、世間よし」


その理念は、彼の心に深く刻まれた。己の利益だけでなく、買い手と世間をも潤す商い。それこそが近江商人の道であり、彼が歩むべき未来であった。

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