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第8話 ワシご馳走になる

(……ん? ここは……?)


薄暗い部屋。

ランプの灯りが壁にゆらゆら揺れ、

窓の外はすでに朱に染まっておる。

夕焼けの光が差し込み、

部屋の空気にどこか温もりを与えていた。


「師匠! 大丈夫ですか!?」


ガタッと音を立てて椅子を引くリリア。

慌てて駆け寄り、ワシの顔を覗き込んでくる。


「お、おお……? ワシ……倒れておったのか?」


声が少ししゃがれて出た。

寝起きだからか、あるいは魔力切れのせいか。


リリアはホッと胸を押さえ、優しく微笑んだ。

「はい、魔力切れのようです。

しかも師匠、食事も取っていませんでしたし……」


(ふむ……やはりか。

モンクだのナイトだの踊り子だの……

バカみたいに変身しまくったのがいけなかったのう。

いや、完全に悪ノリじゃった……。

以後は、ええと……少しは気をつけねば……)


リリアは肩の力を抜き、安堵の吐息をもらした。

「でも、良かった。無事に目を覚まして……。

ちょうど夕飯の支度ができましたので、一緒に食べましょう」


「……む? 夕飯……?」


ワシはハッとした。

(あっ!? そうじゃ! 

ワシ、まだ美少女姿のままじゃった! こ、これは……!)


内心で冷や汗が流れる。

(ま、まあええか……。ちょうど都合がいい……。

この姿なら正体バレはせんじゃろ……。結果オーライじゃな?)


ワシは咳払いして平静を装った。

「う、うむ。では下に参ろうかの」


リリアに先導され、階段を下りて食堂に入る。


長テーブルの上には質素ながら整えられた食器。

その横には、背筋をピンと伸ばした優しそうな男性。

落ち着いた雰囲気をまとったおっとりした女性。

そして制服姿の若い娘が一人。


どうやら家族らしい。


さらに、脇のほうでは――


「チョリーッス! 夕飯タイム開幕っすよー!」


セベスがチャラチャラした動きで料理を並べていた。

腰をひねり、皿をクルッと回してテーブルに置く。

無駄にスタイリッシュである。


まだ食事は始まっておらず、視線が一斉にワシへと向かう。


リリアが勢いよく胸を張り、宣言した。

「――ご紹介します!」


「こちらは私の師匠にして、古代魔法の伝承者。

水を呼び、風を操り、姿をも変える……

人知を超えた存在なのです!」


(おいコラぁぁぁ! また盛りおったなこの娘ぇぇぇ!)


ワシは慌てて手を振り、笑みを貼り付ける。

「い、いやいや! ワシはただの詩人でしてな……」


するとリリアがきっぱりと補足した。

「師匠は奥ゆかしい方なのです。

力を誇るなど、決してなさらないのです」


当主と奥方は顔を見合わせ、感心したようにうなずく。

「ほほぅ……」


(……やばい。完全に“人格者扱い”されとる……!)


次々に紹介が入る。


当主――優しそうな男性が柔らかく笑んだ。

「私はリリアの父で、この家の当主を務めています。

宮仕えの身ゆえ、家は“貧乏男爵”と呼ばれておりますがね」


奥方はふんわりとした笑みを浮かべる。

「まあまあ、ようこそ。リリアがお世話になっております」


制服姿の若い娘は涼しげな目をしていた。

「私は次女です。長女はもう嫁に行きましたので」


(ほう……なるほどの家族構成じゃな。

ひとまず敵意はなさそうでよかったわい)


当主はリリアに目を向け、誇らしげに言った。

「そういえばリリア。

お前、魔法が人並みにできるようになったそうだな?」


リリアは瞳を輝かせ、元気よく答える。

「はいっ! ぜひお見せしたいところです!」


「ちょ、ちょっと待てぇぇい!!」


ワシは椅子をガタッと鳴らして立ち上がった。

「ここで披露するなど無茶じゃろ! 

この屋敷を湖に変える気かぁ!?」


リリアは「えっ」と目を丸くする。

次女は涼しい顔で小さく呟いた。

「……湖? フッ……大袈裟ね」


(くっ……クールに流すでない! 

あの子はマジでやるんじゃ! おぬしら沈むんじゃぞ!)


当主は笑みを浮かべ、穏やかに言った。

「歓迎しますよ。

このような可愛らしい女性がリリアの先生とは……。

どうぞ、しばらくゆっくりしていってください」


ワシは胸をなでおろす。

「そ、そうか……ありがたく……」


ちょうどその時、料理が運ばれてきた。

質素なスープと黒パン、少しの野菜。


ワシはスプーンを手に取り、一口すする。


(む……味が薄い。しかし……)


じんわりと広がる温かさに、自然と頬がゆるむ。


(……空腹は最高のスパイスよな)


久しぶりの温かい食事に、ワシは思わず目尻を下げてしまった。

挿絵(By みてみん)

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