第7話 ワシ悪ノリが過ぎる
ワシは胸を張り、重々しく宣言した。
「よかろう。見せてしんぜようぞ。ワシの“変装の詩”をな!」
リリアとセベスが同時に身を乗り出す。
リリアは目を輝かせ、両手を胸に当てていた。
「師匠、まさかそんな奥義まで……!」
セベスは口角を上げ、腕を組みながらにやり。
「マジっすか!? 楽しみっすわ~!
これ、ギャルがキャーキャーの展開っすね!」
(いや……ほんまに大丈夫なんじゃろか……。
今さら引っ込みつかんがな……!)
ワシは深呼吸し、芝居がかった手つきで両腕を広げた。
変身① モンク
「――“拳に力を! モンクのごとく~♪”」
バシュゥン!
光に包まれたワシの姿は修行僧。
丸坊主、オレンジの袈裟、腕組みしても胸筋モリモリに見える。
リリアが目を丸くして感激の声を上げた。
「おおっ! これは“俗世を捨てし大賢者”の姿!」
セベスは腹を抱えて笑う。
「ちょ、頭テッカテカっすよ師匠!
これはナシっしょ! ギャルウケゼロっすよ!」
ワシは眉間にシワを寄せた。
「やかましいわ! ギャルウケ基準で語るでない!」
変身② ナイト
「――“剣を構えよ、ナイトの詩~♪”」
ドォン!
今度は鎧に身を包み、銀の剣を携えた堂々たる騎士姿に。
胸のエンブレムがキラリと光り、マントがバサッと翻る。
リリアは目を輝かせ、両手を合わせる。
「うわぁ……師匠! 王国を救った英雄みたいです!」
セベスは腕を組みつつ首をひねった。
「でもさぁ~、これだと重すぎじゃねっすか?
街歩きしたらカランコロンうるさいっすよ!」
ワシはガチャガチャ鳴る肩当てを見下ろし、渋い顔。
「い、いや確かに音はガチャガチャうるさいのぅ……」
変身③ 狩人
「――“矢を放て、狩人の調べ~♪”」
シュパァン!
緑のマントに弓を携えた森のレンジャー姿。
腰には小さなナイフ、背中には矢筒。
リリアはうっとりと頬を染める。
「きゃっ……師匠、精悍でカッコいいです!
森の王子様みたい!」
セベスは指をさして笑う。
「おお、これ結構アリっすよ!
でもギャルは森より街にいるんで、やっぱミスマッチっすね!」
ワシは矢筒をガチャガチャさせて振り返った。
「ギャル基準で語るなーー!」
変身④ 神官
「――“癒しの祈り、神官の詩~♪”」
パァァァ……
白ローブに聖印を掲げた清らかな神官の姿。
光の粒が周囲にふわりと舞い、神々しいオーラを放っている。
リリアは思わず手を合わせ、瞳をうるませる。
「神々しい……師匠、聖人のようです……!」
セベスは眉をしかめ、にやり。
「いやぁ、これは清すぎっす! チャラ度ゼロっすね。
むしろ説教されそうでオレ的にはナシっすわ!」
ワシは呆れて肩をすくめた。
「説教なんかせんわ!」
変身⑤ シーフ
「――“影に紛れて、シーフの歌~♪”」
シュシュッ!
黒フードに短剣を二本、怪しい影のような盗賊姿。
目元だけが鋭く光り、全体が闇の中に溶け込んでいる。
リリアは小声で震えながら囁く。
「し、師匠……闇夜の処刑人みたいです……!」
セベスは目を輝かせて身を乗り出した。
「うぉー! これカッコよすぎっす! モテ指数120%っすよ!
でも逆に怖くてギャル寄ってこないかもっす!」
ワシはうんざりした顔で言い返す。
「寄ってこんでええわい!」
変身⑥ 踊り子
「――“舞え舞え、踊り子のリズム~♪”」
ひらりんっ!
腰布ひらひら、鈴のついた衣装で妖艶な踊り子姿に。
布がひらめくたびにチリンチリンと鈴が鳴り、
妙に腰が動きやすい。
リリアは顔を真っ赤にして目をそらす。
「し、師匠!? そ、それはちょっと……
刺激が強すぎます!」
セベスは床を転げ回って大爆笑。
「アハハハ! 師匠マジ最高! これ絶対流行るっすよ!
酒場デビュー間違いなしっす!」
ワシは耳まで赤くして叫んだ。
「やめい! なんでワシが酒場で踊らにゃならんのじゃ!」
変身⑦ 可愛らしい女の子
「――“愛らしき花の乙女よ~♪ 可憐に変えてくれ~♪”」
バシュゥゥゥン!
現れたのは――
ふわふわ髪の小柄な美少女。
大きな瞳、薔薇色の頬、声まで可愛らしく……
鏡の中にいるのは完全に「師匠」ではなかった。
リリアは両手で口を押さえ、絶叫する。
「きゃああああ! 師匠が……師匠が美少女にっ!!」
セベスは口笛を吹きながら片眉を上げる。
「ギャルじゃなくて、もうアイドルっすねコレ!
いや、マジ天使っすわ!」
ワシは内心パニックになり、心の中で悲鳴をあげる。
(ちょっ……まっ……声まで高くなっとる!?
なんじゃこの破壊力はぁぁぁ!?)
ふらりと立ちくらみ。
「……あ、あかん……魔力切れ……」
どさぁっ。
――こうしてワシは倒れ、美少女の姿のまま動けなくなってしまった。