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第6話 ワシ変装する


「師匠、やはり公には出来ないのですね……!」


リリアが真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。

おいおい、その眼差しやめんかい。

ワシはただの腹の出たおっさんなんじゃが……。


「いやいや、ワシはのぅ……ほんに目立つような者では――」


「つまり! 

世間には知られてはいけない使命を背負っているのですね!?」


「ちょ、ちょい待ちぃ! 誰がそんなことを――」


「だって! あの水の奇跡も、風の加護も……

師匠が隠している“古代詩魔法”のほんの一端でしょう!? 

あれを見ただけで、私は確信しました!」


(確信すなぁぁぁ! 

あれただの生活便利魔法なんじゃぁぁ!)


リリアは胸に手を当て、うっとりと呟く。

「師匠は……きっと時代に拒まれた孤高の大賢者。

身をやつして詩人と名乗り、

この国の片隅でひっそり生きておられるのですね……!」


「いや、ワシ、ただ追放されただけで……!」


「追放――そうか! 

きっと、王国に力を恐れられたのですね! 

あの王と宰相が、師匠の真の力を見抜き、畏怖し、

わざと追放という形で封じ込めたのだわ!」


「なんでそうなるんじゃーー!?」


そこへ、廊下の奥からチャラっとした足音が響いてきた。

「チョリーっす! 入っちゃっていいっすかー?」


セベスが満面の笑みで現れた。

まぶしい……うざい……なんで執事服にサングラスなのじゃ。


「リリア様ぁ! 師匠殿ぉ! 

聞いちゃいましたよ、正体隠してるっすよね? 

変装した方がよくねっすか?」


「へ、変装ぉ!?」


「だってそのままだと目立っちゃうっしょ? 

道ゆけば『あれが古代魔法の大詩人!』って、

モテモテっすよ? ギャルも寄ってきちゃうっすよ?」


「モテモテ!? ギャル!? いやいや! 

ワシそんなの望んどらんし!」


「大丈夫っすよ~、オレに任せとけば! 

ほら、ヒゲにちょっと粉つけて、腰に赤いスカーフ巻いとけば……

はいっ! いっきに吟遊詩人風のダンディーマスター完成っす!」


「なんじゃその安っぽい変装はぁぁ!」


リリアは頬を赤らめて、両手をぎゅっと握る。

「すごい……! 

その変装で人々の目を欺き、

裏で人知れず世界を救うんですね……!」


「いや、ワシ! そんな裏稼業やっとらんし! 

腹が減ったから飯が欲しいだけじゃーー!」


リリアとセベスは尊敬とテンションで勝手に盛り上がり、

ワシはただ一人、胃が痛くなるのを必死でこらえるのであった。



(待てよ……そうじゃ! 

変装もひょっとしたらワシの便利魔法でいけるのでは……?)


ワシは腕を組み、ふんぞり返って「ドヤ顔」を決めてみせた。

(内心:いや、もちろん実験じゃ。

成功する保証はゼロじゃが……

失敗しても“抑えておるだけ”って言えば、何とかなるじゃろ!)


わざとらしく咳払いして、芝居がかった口調で宣言した。


「……コホン。仕方ない。

ここでワシの“秘奥義”を披露してしんぜよう。変装の魔法じゃ」


リリアとセベスが、まるで雷に打たれたように動きを止める。

目をまん丸にしてワシを凝視。


「し、師匠! そんなことまで出来るのですか!?」

リリアは両手を胸の前で組み、信じられないものを見るような瞳。


「マジっすか!? 変装までアリって……

それもう便利屋スキルっすよ! 

いや、むしろ人類チート図鑑っすね!」

セベスは興奮して、キラキラ光る指輪を

チャラチャラ鳴らしながら叫んだ。


(ふふん、乗ってきおったわい。

……ええい、こうなったら悪ノリ全開じゃ!)


ワシはゆっくりと両手を広げ、

舞台役者のように腰を反らし、声を張り上げる。

雰囲気作りのために、なぜかステップまで踏んでしまった。


変装の詩

「ワシのシワをさらりと伸ばし、腹肉もギュッと引き締め~♪

 薄毛の頭にフッサフサを咲かせ~♪

 若々しき光を纏わせて~~♪”」


バシュゥン!

光に包まれ、鏡に映ったワシの顔は……まさかのイケメン若者!

髪サラッサラ、顎スッキリ、目はキラッキラ。


「お、おぉぉぉ!? ワシ……若返っとるぅぅ!?」


鏡に近づき、思わず頬をぺちぺち。肌はつやつや、毛穴レス。

(こ、これがワシ!? 詐欺写真も真っ青の奇跡補正じゃあ!)


リリアは両手で口を覆い、目を潤ませて叫ぶ。

「し、師匠が……イケメン青年に……! すごい! すごすぎます!」


セベスはもはや踊り出す勢いで拍手喝采。

「うぉぉーっす! 師匠、これマジ優勝っすよ! 

街歩いたらギャル100人どころか、

ギルド職員から貴族マダムまで即落ちっすね!」


「そ、そげなこと言われても……!」

ワシはイケメンフェイスを鏡で確かめながら内心オロオロ。

(いや、確かに若返るのは嬉しいけどのぅ……

なんか、これじゃ“師匠”というより、

“無名の若造冒険者”じゃろ……!)


リリアは小首をかしげ、眉を寄せた。

「でも……これだと“師匠”と呼ぶには、

ちょっと若すぎませんか?」


「む、むぅ……確かに……」

(あかん、今度は逆に威厳ゼロ扱いか! 

ならば――!)


ワシは再び芝居がかった仕草で、詩を紡ぐ。


「――“シワも杖も、老練の香りを纏わせ~♪

 ワシを知恵深き魔導の祖母へと変えたまえ~~♪”」


ドシュゥゥン!


閃光が弾け、次に鏡へ映ったのは――

背中の曲がった白髪の老婆!

腰にはいつの間にか木の杖が握られ、皺だらけの手が震えておる。

口からは勝手に「ほっほっほ……」と、枯れた笑い声が漏れた。


「……あれ、ワシ……おばあさんになっとるーッ!?」


リリアは絶叫。

「師匠!? もはや“師匠”を通り越して“祖師”です!」


セベスは目をキラッキラにして叫ぶ。

「やっば、魔女っすね! 逆にアリっす! 

その路線もイケてるっすよ師匠ー!」


(内心:ちょっと待てや! 

若返りから老婆化って極端すぎるじゃろ! 

中間は無いんか、中間はぁぁぁ!!)


↓カッコよくなりすぎたおっさんのイメージ

挿絵(By みてみん)

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