第39話 ワシ禁断の扉を開けてしまう
「彼女は“フラグ魔法師”ってことらしいっすけど、
なんのことかさっぱりっすね〜」
セベスが紅茶をすすりながら、肩をすくめた。
「ふらぐ……? なんか、ゲームとかで“イベントが
起こるきっかけ”みたいなもんじゃと聞いたことがあるのう……」
ワシは腕を組んで、むむむと唸る。
(よく知らんけどの……なんか運命をどうこうする魔法っぽいし、
下手に触るとヤバいやつではないか……?)
だが、周囲ではまだイルム・エストラード・メガデスの三人が口喧嘩中。
「お前の防御はアートっていうか事故だよ!」
「ミーの輝きを侮辱するなッ!」
「ビートで殴り愛、それが友情だろ!」
(……いや、これもうカオスどころか、カオスの具現化じゃろ)
「ん? じゃあこのカオスな状態も“イベント”ってことかいな……?」
ワシはポリポリと頬をかきながらぼやく。
「フラグを、なんかすればこの状況が良くなるんじゃろうか……?」
少し考えて――
「ま、まあやってみるかの。これより悪くなることは……
うん、ないじゃろうて!」
ワシは決意して、カイリーのほうを向いた。
「カイリーよ、試しにお主の魔法を見せてくれんかの?」
そう言うと、カイリーはびくりと肩を震わせ、目を伏せた。
「わ、私……まだ一度も使ったことがなくて……。
だって、だって……“発動条件”が、尊すぎて……!」
「尊っ!? ど、どんな条件なんじゃ!?
なんか危険な香りしかしないんじゃが!」
「大丈夫っす師匠〜。
なんか、好きな組み合わせが成立した瞬間に
パワーが上がるタイプらしいっすよ」
セベスがにやにや笑いながら言う。
「そ、それは……つまり恋愛的な意味かの?
え、まさか、異性間で……?」
「……異性限定じゃないっすね」
「ふ、不安が増したぁぁぁ!」
「まあよい、ワシがまずやってみせよう」
(イメージは……そうじゃな、
書類を修正ペンで塗りつぶして上書きする感じじゃ!)
ワシ、息を吸って――詠唱開始!
【白塗りの詩】
「――純白のインクよ、このおっさんの過ちの記録を覆え〜〜♪
恥ずかしき過去も、みっともない現状も、跡形もなく塗りつぶせよ〜!
そして、新しい未来の美しい文字を、今ここに上書きしたまえぇぇぇ〜〜♪」
ふわぁっと白い光が広がり、
訓練場全体がふんわりリセットされたような気がする。
「……なんか空気が軽くなったような気がするのう?」
「師匠、浄化効果すごいです!」「聖なる編集能力……!」
(いやワシ、ただ修正テープでピーってしたなんじゃけど……)
「さあ、カイリー。自分の言葉でやってみるんじゃ」
カイリーは目を閉じ、うっとりした表情でコクリと頷いた。
「運命操作(エンシェント・CP)……ッ!
解釈違い(かいしゃくちがい)は絶対許さない!
公式も私にひれ伏せ!
時間の概念すら、
推しカプの尊さを証明するための道具!
太古から運命で繋がれた魂が、
今、この世界線に強制合流!
――エンシェント・CP! 永遠の左右固定!
これで安心して供給を待てるわぁぁぁ!!」
ドォン!! と地面が震える。
紫とピンクの混ざった異様な光が走り、訓練場を包み込む。
「お、おおおっ!? なんか凄そうじゃ!?
凄そうじゃが危険な香りしかしない!!」
「し、師匠!? 光の向こうで何かが……!!」
光が収まり――そこに現れたのは、
なぜか仲良く肩を組むイルム・エストラード・メガデスの三人。
「……え、なんか僕、急にこの二人の波動が心地よくなってきた……」
「ふ……ミーもだ。まるで運命で結ばれていたかのように……
君のツッコミが輝いて見える……!」
「オレ様たちは――三位一体のソウル・ユニゾン!
友情ってレベルじゃねぇぞぉぉ!!」
「こ、これは……尊っ!? いや尊くない!?
え、どっち!? 混乱するッ!!」
「受け入れろ……運命を……!」
「ビートで抱きしめ合うぜぇぇぇ!!!」
ガシィィッッ!!(3人抱き合う)
「な、なにが起きておるんじゃ!?
なぜ友情が……物理的接触を超えておるうぅぅ!?」
「師匠〜、これ多分、フラグ魔法の副作用っすね」
「副作用!? ってことはこの尊い三角関係、治らんのか!?」
「供給されるまでは続くっすね」
「誰が供給するんじゃぁぁ!!!」
「師匠! お三方が眩しすぎて見えません!」
「うっ、うっ……理想の構図……尊い……供給完了……♡」
こうして、Gクラス初の“尊いフラグ魔法”が世界に刻まれた。
その発動条件も、解除条件も――
いまだ謎のままである。




