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第2話 ワシ意外と生きていけそう?

「わ、ワシはまだ何もしておらんぞ! 待て、落ち着け! 

話し合おうではないか!」

「うるせえ、歩け!」


護衛役の兵士に腕をつかまれ、

ずるずると玉座の間から引きずり出されるおっさん。

「イタタタタ! やめんか、関節が逆に――いててて!」

廊下に響くのは、勇者とは思えぬ悲鳴であった。


かくしておっさんは、銀貨数枚を手渡され、

まるで厄介払いのように王宮の門前に突っ立たされた。


「……なんじゃこの仕打ちは。

ワシ、ただ残業中、カップ麺食べてただけなのに……」


とぼとぼと街外れへ行くあてもなく、夜の冷たい風に吹かれ、

焚き火も尽き、ますます冷え込む中、

ついに石の上で丸まって震える羽目になる。



布団を温める詩

「さみぃ……! 寒すぎるわ!  

何が異世界召喚じゃ、ブラック企業の社畜の方がまだマシじゃわ!

……死ぬ、マジで死ぬ。ワシ、冬山遭難ドキュメンタリーの

ラストみたいになってまう……」


歯をガチガチ言わせながら、

どうにもならぬ寒さに追い詰められたおっさんは、思わず口ずさんだ。


「――“あったかマントよ、ワシを包め~♪ 

さみしき夜をぬくもりで彩れ~♪

震えるおっさんの腹肉も、ぽかぽかに溶かしてくれ~~♪”」


……次の瞬間、マントの中がじんわりと暖かくなった。


「……ん? ぬ、ぬくい!? な、なんじゃこれ!? 

魔法か!? いやいや、ワシ、ただの替え歌を……」


内心は大パニック。

だが背中を包む温もりに、思わず涙目になりつつ天を仰いだ。


「……神か……ワシは今、神を見たのかもしれん……!」


土で寝床を作る詩


草むらと石ころだらけの野原に、ワシは這いつくばる。

「……地面が硬すぎるわ……これ、寝たら翌朝腰砕け確定やろ……」


絶望しながらも、思わず口ずさむ。


「――“大地よ、広き母よ。

 このおっさんを優しく抱け。

 石をならし、草を撫で、凹凸を平らにせよ~♪

 土の柔らかさ、ワシの背中に宿れ~♪

 朝まで安眠せしめたまえ~~♪”」


手元の土がふわりと盛り上がり、石が押しつぶされるように沈む。

小さな窪みが体にフィットし、背中にじんわり土の温もりが伝わる。


「……おお!? マジで敷布団作られた! 

地面に寝てる感、半分しかない!

 異世界、ワシに優しいやんけ!」


ワシはそのまま土の寝床に丸くなり、体を揺すりながら快適さを確かめる。


「ふぅ……石ころも痛くない、草も程よく当たる……

 これで今日はぐっすり寝られそうじゃ……」


内心、胸が熱くなる。

「……いや、朝起きたら虫に襲われるかもしれんが、

それはそれで人生やな……」


喉の渇きを癒す詩



真夜中。今度は喉の渇きで目が覚める。

「水……水をくれぇ……!」


「――“月影よ、夜を渡れ。

 涸れた喉に清き雫を。

 疲れ果てた中年の舌に、せめて潤いの恵みを~~♪”」


手のひらに小さな泉が湧き、透明な水がたまる。



「ひゃーっ! で、出た! なんじゃこれ! 

お冷やサービスか!? いや、サービス誰や!

ゴクゴク……ぷはぁぁ! 冷たくてうまい! 

夢中で飲み干す。


ミネラルウォーター超えた! 

異世界天然水ブランド化待ったなしじゃ!」


風で乾かす詩


翌日。雨に降られて全身びしょ濡れ。

「うぅぅ、パンツまで冷え冷えじゃ……風邪ひいて死ぬわ……」


「――“風よ、風よ、天翔ける風よ。

 このびしょ濡れおっさんを救いたまえ。

 衣を乾かし、頭皮もサラサラに。

 異世界の美容室、今ここにオープンじゃ~~♪”」


ぶわぁっと風が吹き抜け、服も髪も一瞬で乾く。


「……ドライヤー付き全身乾燥機!? 異世界すげぇなオイ!」


ワシはしばし呆然と立ち尽くした後、ドヤ顔で胸を張った。


「ふふふ……戦闘向きではないが……ワシ、これで生きてけるんじゃないか?」


だが直後に腹の虫がぐぅぅと鳴り、天を仰ぐ。


「……食い物問題だけは、ガチで死活問題じゃな」


こうして、便利詩魔法で生き延びるおっさんの異世界生活が幕を開けるのだった。


挿絵(By みてみん)

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