第15話 ワシスカウトされる
昼下がり。
ワシは屋敷の庭のベンチにどっかり腰を下ろし、
心地よい陽射しにまぶたを落としておった。
「ふあぁ……ええ天気じゃ……」
鼻ちょうちんでも出そうな勢いで欠伸をかます。
(まさか追放されたおっさんが、
こんな立派な貴族屋敷の庭先で昼寝することになろうとはのぅ……。
これも人生、何が起こるかわからんもんじゃ)
――カツン、カツン。
石畳を踏む靴音が近づいてくる。
「失礼いたします!」
凛とした声にぱちりと目を開ければ、
門の前には制服姿の青年が立っていた。
胸には王国の紋章、立ち姿はやけにキリッとしている。
どう見ても、役人か学園の人間じゃ。
すかさずセベスがスッと現れ、妙に優雅な所作で応対した。
「チョリーっす! オレシー、執事のセベスっす! ご用件は? 」
「私は王立魔法学園の使者、サイラスと申します!」
青年は胸を張り、声を張り上げる。
「こちらに滞在されている“聖女様”……
いえ、“古代魔法師”様に、ぜひお伝えしたきことがあり参りました!」
ワシ、心臓がドクンと跳ねる。
(せ、聖女様!?
いやいや待て、誰がそんなことを言いふらしたんじゃ!?
リリアぁぁぁ!! 絶対おぬしじゃろぉぉぉ!!)
セベスがニヤリと口角を上げ、わざとらしくこちらに振り返った。
「師匠ー、いやいや、“アサリーヌ様”ー、出番っすよー」
「ぐぬぬ……!」
慌てて立ち上がったワシは、
喉をコホンと鳴らし、妙に重々しく口を開いた。
「コホン……ワシがその……
アサリーヌとやらじゃが? い、いかにも、何用かな?」
(あああ、なんで疑問形になっとるんじゃワシぃ!
自信なさげすぎる聖女がどこにおるかぁ!)
しかしサイラスは、感動したように目を見開き、深々と頭を下げる。
「つい先日、市中で料理を美味に変えられたとリリア君から伺いました!
すでに学園や役人の間でも、その奇跡の力は大きな話題となっております!
聞けばアーヴル卿のところに滞在なさっているとか。
どうか学園にお越しいただき、学生たちに“古代魔法の真髄”をお示しいただきたく!」
「ええっ!? が、学園に!? ワシが!?」
思わず声が裏返り、庭に響き渡る。小鳥すら飛び立った。
後ろでセベスが、したり顔でうんうんとうなずいておる。
「師匠なら当然っすよ。
学生たちに夢と希望とおいしいランチを与える存在っすから」
「ランチまで含めるなや!!」
ワシは頭を抱え、ベンチにずるずると崩れ落ちる。
(いやいやいや! ワシはただの追放おっさん詩人じゃぞ!?
なんで学園の講師に担ぎ上げられそうになっとるんじゃぁぁぁ!!)
――こうして、ワシの「学園講師(仮)」騒動が幕を開けることになるのであった。