表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/18

第10話  ワシ聖女になる

ワシら三人が「うまい!」「これは格別じゃ!」

と食べていたら、周囲の客がざわめき始めた。


「おい……なんか隣の席、

めちゃくちゃうまそうに食ってないか?」

「さっきまで『味薄いな』って顔してたのに……なんでだ?」


視線が集まる中、一人の男が恐る恐る近づいてきた。

「そ、その……お嬢さん。いや、師匠? 

俺にも、その……魔法を……」


ワシはびくりと肩を震わせた。

(お、お嬢さん!? 

そうじゃった、今のワシ、美少女姿じゃった! 

くっ、面倒なことになったのう!)


だがリリアはキラッキラの目でにっこり微笑む。

「師匠、お願いを聞いて上げては?」


セベスも腕を組んで、にやり。

「出番っすよ、師匠。ここはドーンと魅せる時っす!」


(やめろ! ドーンと魅せるとか言うな! 

ワシ、ただの味付けおっさんなんじゃ!)


しかし周囲の視線が熱すぎて逃げ場はない。

ワシは観念し、重々しく詠じた。


「――“平凡なる皿よ、恵みを得よ♪

 塩ひとつまみ、愛ひと匙♪

 噛めば心に踊りだす、至福の調べを響かせたまえぇぇ~~♪”」


男のシチューがみるみる香り立ち、

味を確かめた彼は椅子から飛び上がった。


「う、うまァァァァァい!!」


その瞬間、他の客たちも一斉に叫びだす。

「俺にも!」「わたしにもお願いします!」

「オレの黒パン、ふかふかにしてくれーっ!」


気づけばワシは大忙し。

スープに、パンに、肉にと、

次々に“味変の詩”をかけて回る羽目に。


「うまい!」「こんなの食ったことねえ!」

「魔法レストランだ!」


さらに調子に乗ったセベスが叫ぶ。

「さぁ並べ並べ~! 師匠の味変ショー、

まだまだ続くっすよー!」


(余計なことを言うでない! 

ワシは大道芸人ではないぞ!!)


ついには奥から店主まで出てきて、

両手を合わせて頭を下げてきた。

「お嬢さん! いや師匠! 

ぜひうちで働いてください! 給金はいくらでも出します!」


「は、働くぅ!? いやいやいや、ワシそんなつもりは……!」


リリアがすっと前に出る。

「申し訳ありません。

師匠は放浪の大賢者、ひとつの場所に縛られるお方ではないのです」


セベスもチャラ声で加勢する。

「っすね~! 

師匠レベルになると、世界が厨房っすから! 

ここだけじゃ収まりきんないっすよ!」


「そ、そんな大層な……!」

ワシは頭を抱えつつ、引きずられるように店を後にした。


だが――

店を出てみれば、そこにはすでに長蛇の列ができていた。


「ここの食堂に“料理を美味しくする美少女”がいるらしいぞ!」

「え、マジ? 見たい! 食べたい!」

「一目でいいから“聖女様”を拝みたい!」


ワシ:(あ、あぁぁぁぁ!! また妙な噂がぁぁぁ!!)


気づけば群衆から

「聖女様!」「味変の聖女様!」とコールが起こり始める。

両手を合わせて拝む者、花を差し出す者まで現れて――


(やめんかぁぁ! ワシはただの味付け詩人じゃぁぁぁ!!)


こうしてワシの“味変魔法”は、

瞬く間に街中の話題となってしまったのであった……。


「師匠! 早く準備を!」

「おおっす! 

聖女様の本領発揮っすね~! 盛り上がるっすよ師匠~!」


(う、浮かれすぎじゃ……ワシ、ただの詩人なんじゃぞ……!)


「聖女様!」「味変の聖女様ー!」

すでに群衆がワシを見つけ、手を振り、拍手しておる。


ワシ:(ちょ、ちょっと待てぃ! 

ワシ、ただの味付け詩人じゃ! 

魔法で料理をちょっと美味しくしただけじゃぁ!!)


しかし人々は全く聞く耳を持たない。

リリアが楽しそうに胸を張る。

「皆さん、どうぞ! 聖女様の奇跡の味をお楽しみください!」


セベスも周囲に声を張る。

「っすよ~! 奇跡の味変ショー、スタートっす!」


(おおおい! ショーって……そんな大層なものでは……!)


群衆の期待の目の前で、ワシは渋々詠じた。


「――“平凡なる食べ物よ、至高の味わい授けたまえぇ~♪

 塩ひとつまみ~♪ 愛ひとさじぃ~♪

 もぐもぐ噛めば~おっさんのほっぺも落ちるんじゃよぉ~♪

 幸せのメロディー、今ここに響けぇぇ~~♪”」



瞬間、屋台のスープやパン、肉や魚介がみるみる美味しそうに変化。

香ばしい匂いが辺り一面に充満し、群衆は歓声を上げた。


「うまァァァァい!!」

「聖女様すげぇぇぇ!!」

「これぞ奇跡の味変――!」


(ひぃぃ……こうなると止められんじゃろ……!)

しかし、祭りはそれだけでは終わらない。


群衆はワシを囲むように押し寄せ、肩を抱き、時には担ごうとする。

「聖女様ー! こちらへー!」

「舞台に上がって、皆にご加護を!」


「ひゃあああああ!! 待て待て待てぇぇぇ!!」

ワシは美少女姿のまま、両手をばたつかせながら逃げ惑う。

リリアとセベスも慌てて後ろから追いかける。


「おおー! 師匠、モテモテっすねー!! 

もう完全に主役っすよーー!」


「師匠……どうかご無事で……!」


それでも群衆は止まらない。

屋台の前から舞台へ、山車へと担ぎ上げられ、

気がつけばワシは“聖女様の山車パレード”のど真ん中!


ワシ:(ひぃぃぃ……美少女姿で山車に乗るとか、

どんな羞恥プレイじゃ……!)

周囲の声援に押され、手を振るしかないワシ。

「い、いや、これは誤解じゃ……ただの味付け詩人じゃ……!」


しかし、群衆は耳を貸さない。

「聖女様、万歳!」

「味変の奇跡をありがとう!」

「もっと魔法を見せてー!」


リリアとセベスはうっとり顔で笑い、ワシのパニックに拍車をかける。

「っすねー! これぞ祭りのハイライトっす!」


ワシ:(くっ……ワシ、どうなってしまうんじゃ……!)

こうして、ワシは意図せず“祭りの主役”に祭り上げられ、

美少女姿でパニックを起こす羽目になったのであった……。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
おっさんの心の声が最高に面白いです!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ