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ゴクリ

天国ってものが、実際にあることに少し驚いた。

同時に、内心、ほっとしている自分がいた。


「ほんとに、おれは天国に行けるんだな?」


「はい、ただ天国といっても現世と同じようなありふれた世界ですよ」


「あの闇の中に、比べたらぜんぜんいいだろ」


「それは、そうですね。では、天国でこの先、暮らしますか? あるいは……」


ジョーカーは、そこまで話して間をあけた。


いかにも、そこから先を聞きたいよな、と言わんばかりの言葉の止め方、

おれは、まんまと、その話術に乗ってしまった。


「他にもあるのか?」


返事はなかった。

表情はもちろんわからない。

だが、仮面の向こうで笑みを浮かべている姿が頭のなかを過ぎった。


「おい、もしかして、戻れる手段が?」


おれの語気の強さを感じたのか、ジョーカーはようやく口を開いた。


「天国で待っていれば、そのうち彼女に会えるんですよ?」


「おれは、これからも彼女を見守りたいんだ」


「あなたは一度、現世から離れました。見守ることを拒否したんですよね」


ジョーカーの言う通りまったくの正論で、反論できない。


たしかにおれはあそこから逃げた。


彼女の影として近くで見守ろうといっときは思った。


だが、彼女の行動を見ているうちに、気持ちが揺らいでしまった。


「おれが自分の感情をコントロールできなかったせいだ」


「大人なら、見守れたかもしれません。でも、若いあなたにはただ見ているのが辛かったんでしょう」


「このままじゃ彼女との約束が果せない。お願いだ、さっき言おうとしたやつを教えてくれ」


必死で嘆願しながらも、この会話は相手に主導権があるとわかっていた。


だが、そんなことに構ってる余裕などなかった。


いっそのこと、思うがままに操られてやるよ、もし戻れる手段があるなら、何だってやるさ、


それが、おれの正直な気持ちだった。


「そんなに、知りたいですか?」


「もちろんだ」


「ここだけの話……とお約束できます?」


おれは、ゴクリとつばを飲み込んで、次の言葉を待った。


「それは……」


と言ったあと、少し言葉を溜めてジョーカーは言った。




「脱走です」

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