表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/57

闇の中

気がついたとき、おれはまた、あの闇の中にいた。


「また、ここか。ま、仕方ないよな」


誰に言うでもなく、おれは呟いた。


思ったより早く帰ってきたが、もう十分だろ。

ここでずっと眠りながら、思い出と一緒に過ごすのも悪くないさ。


前回は何とかして記憶を忘れようとしてた。

でも、無理に忘れようとすればするほど、苦しかった。

過去は消えずにむしろ、どんどん心に深く残っていった。


でも、思い出は単なる過去じゃないと理解できた。

今も心の中にあって、いつでも呼び起こせる。

彼女の声、笑顔、最後に触れたあの温もりが、今もなお生きている。


それだけで、おれはもう満足だった。


真っ暗闇の中、ここで静かに流れていく時間が、

まるで胎内にいるような穏やかな感覚に変わった。


どれだけの時間が過ぎたかもうわからなくなっていた、


ある日、


「光?」


いきなり、目の前に強い光が差し込んできた。

それは、あのときと同じだった。


案の定、あの声が聞こえた。


「やっと戻ってきたのね。ま、わたしはどーでもよかったんだけど」


ジョーカーのツンとした口調が耳に心地いいわけないのに、なんだか懐かしかった。


「つか、なんでまたお前が来る? おれはこの闇の世界で過ごすんだろ?」


「うるさいわね! これも仕事なんですの。あんたは『もう十分』とか言って、中途半端に満足してるみたいだけどさ」


「うっ……」


そうだ、彼女にはおれの考えていることは全てお見通しだったな。


「……たしかに今までは無理に忘れようとして、ずっと心の中でモヤモヤしてたさ。でもな、思い出も悪いもんじゃないんだなって思えるようになったんだ。これもジョーカーのおかげさ」


「……そう。なら、そうしておけばいいわ」


ジョーカーは素っ気なく言ったけど、何だか顔を赤らめている気がした。


もしかして、ちょっと照れてるのか?

おいおい、なんでだよ?


「お前、ちょっと優しくなったか?」


「なっ……なんでもないわよ! 余計なお世話! ……じゃなくて、あなたに知らせてって、ケイから連絡が届いたの。彼女についてだけど、知りたい?」


彼女のことと言われて、おれは真顔に戻って黙ってうなずいた。


「……辛い知らせでもいいの?」


「もう今さら辛いことなんて、ないだろ?」


「じゃあ、遠慮なく伝えるわ。もう、あちらでは5年が経ったの」


「そっか、こっちの世界で過ごしてるとわからないな」


「ええ、ここでは、100年だってあっという間だし」


「それで、彼女はどうしてる?」


ジョーカーは少し間をおいた後、静かに答えた。


「結婚したらしいわよ」


「……そうか」


「しかも、あなたの親友とね」


「ああ、それならよかった」


「……へぇ、本心みたいね」


「もちろんだろ。あいつなら、彼女を幸せにできるさ」


「でも……あなたにも、できたんじゃないかしら?」


その言葉を聞いて、あの頃の自分を思い出していた。

そして、改めておれは思った。

感情的になることなく、冷静にそれを言葉にできた。


「いや、あの頃のおれには無理だったな」


「やけに素直なのねー」


「これも、あっちにもう一度、戻らせて彼女と話せたおかげさ」


「あっそ。あんたがいなくなってもしっかりと未来を歩んでるみたいだし、これで彼女も幸せになれるかしら」


その言葉が、心にじわっと染み込んでくる。

なぜだろうか、別に悲しくなかった。

むしろ、ホッとした。

彼女が幸せなら、それでいいんだ。

向こうに戻ったのは、おれのためじゃない。

彼女のためだったんだからさ。


「……そうだな、きっと幸せになる」


「あと、もう一つ言わなくちゃいけないことがあるの……」


ジョーカーはそう言って、闇の中から近づいてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ