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白い光

刃物が胸元へと迫り、金属の冷たい光が視界の端で鋭く弾ける瞬間、


「さいてーだな」


そう言って、おれは突き出された刃先を躊躇なく両手で掴んだ。


痛みなんかどうでもよかった、単純にやつの卑怯さに腹が立った。


だが、子供の力とはいえ、それを押し返すほどの力は残ってない。


徐々に、刃先はおれに近づいてきて、ついに身体に触れた。


ちょうどその瞬間……


世界が、すとんと止まった。


風を切り裂いていたはずのジェットコースターは沈黙し、

耳元で暴れていた風もきっぱりと息を潜めていた。


レールから伝わっていた激しい振動も、

悲鳴のように聞こえていた車輪の擦過音も、

すべてが遠い昔の記憶のように消え失せた。


時間だけが伸び、歪み、絡まり合い、

まるで別の次元に踏み込んだように……


どこからともなく白い光が舞ってきた。


「なんだ、これは!?」


やつは戸惑いの声を繰り返した。


「……おいっ!?」


その光は、あまりにも静かで音も、衝撃も、熱ささえ感じない。

ただひたすらに透明で、冷たくも温かくもない、不思議な白色。

だが、その優しげな白光は、確かな力を持っていた。


最初は細い糸のように、しかし瞬く間に太い柱へと変わって、

ついには、おれたちが乗っていた席を包みこんでいった。


「やめてくれっ……」


やつの声がまるでその光に溶けるように、弱まっていく。


「おい……ま……だ……」


ただの薄っぺらな機械音のような声が漏れたあと、

白い光はやつの身体をすっぽりと包みこんだ。


おれは以前に、これと似た場面を経験したことがあった。


あの時は、真っ黒な影がやつの身体を包み込んでいった。

そうだ、今もはっきりと当時のことを覚えている。


彼女がやつに襲われそうになっていたとき、

真っ黒な影と化していたおれがやつを包み込んで、

おれと一緒にあっちの世界に連れていった。


それと、まったく同じってことは……


そういうことか、


やっぱり向こうで見ていたんだな。


ジョーカーなら、いつでもやつを捕まえることができた。


おれはあくまで、やつを油断させるための道具、

だったってことか。


わかっていても、目の前でそれをされるのは辛いもんだな。


確かに、おれのこの身体じゃ彼女を救えなかったさ。


それどころか、彼女の愛する祖父まで目の前で殺させるとこだった。


その最悪の状況は免れたから、その点は感謝しないといけない。


ああ、わかってるよ。


こんな未練たらしいことを考えてる、


こんな半端なやつの、最後って所詮こんなもんだってこともな。


ただ、これじゃ何のためにおれを現世に生き返らせた?


何で、おれに変な期待をさせたんだ?


ジョーカー、なんとか言ってくれよ。



(……だいじょうぶ?)


朦朧とする意識の向こうから聞こえたのは、

ジョーカーではなく、彼女の声だった。


いつの間にか、風が戻っていた。

ジェットコースターはゆっくりと減速し、

軋むような音を立てながらスタート地点に到着した。

重力は元に戻ったはずなのに、まだ身体は宙に浮いているようだった。


目の端に、顔を覗きこむ彼女の姿が映った。

頬は涙で濡れ、まだ小刻みに震えているのに、

それでも、彼女はおれに向かって声を上げ続けた。


「ねぇ……何か返事して!」


胸の奥までじんわりと暖かさが広がる。

緊張が解けていく。

全ての力が、抜けていく。

もう声なんて出せなかった。


世界の色が薄れ、視界がゆっくり暗く溶けて、

おれの意識は深い闇の底に沈んでいった。


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