乗り物
遊園地に到着したのは、午後二時前だった。
家族連れで賑わう入口。
園内に入るとたくさんの笑い声が聞こえ、楽しそうな音楽が流れていた。
風船、ポップコーン、心地よい陽の光、病院とは真逆の空間だった。
この場所が死の匂いを孕んでいるなんて、誰も思わないだろう、
おれ以外は……
案内所へと向かい、受付の女性に声をかけた。
「すみません。孫とはぐれてしまって……呼び出してもらえませんか?」
彼女の名前を告げると、
「かしこまりました」
女性は笑顔で応対し、館内放送でその名前が呼ばれた。
数分後、彼女の姿が遠めに見えた。
その横には、当然あいつもいた。
二人はキョロキョロと周囲を見渡している。
手を上げて名前を呼ぶと、彼女は驚いた様子で、
「お、おじいちゃん!? 」
当然の反応だったが、その横で、あいつはにやりと笑っていた。
全てを知っていたような、そんな表情だった。
(そうだよな、お前の罠にハマってやったぞ)
「どうしてここに? まだ、寝てないとダメだよ」
「身体ならもう大丈夫だ。またストーカーが出たって、お母さんから連絡があったんだ」
「お母さんから?」
「ああ、昨日、この子が遊園地に遊びに行くって話してたから、ふたりが心配で来たんだが」
おれはとっさに口をついた嘘を、できるだけ自然に語った。
「ストーカーって、あの人のこと?」
いや、すぐ横にいるその子供さ。
もちろん、そんなこと声には出せなかったが……
「さあ、わからんが念のためってやつさ。守るって約束しただろ?」
「う、うん、それは嬉しいんだけど……ほんとに大丈夫なの?」
「なんとかな。今日はこれもあるし」
と言って、売店で買った杖を差し出した。
すると、あいつが初めて声をあげた。
「へぇ、杖ってかっこいいなぁ、なんか武器っぽい」
「もう、そんなこと言わないの」
彼女があいつの頭を軽く叩きながら叱る。
「ねぇ、ストーカーってなに?」
「んー、ひとを、しつこく追いかける人のことだよー」
ふたりのやり取りはまるで親子のそれを見ているようだった。
「ふーん、じゃ、ぼくが守るから大丈夫だよ!」
あいつが、まるで正義の味方を演じるように胸を張って見せると、
その仕草に、彼女は優しく笑い声をあげる。
その笑顔は、おれがこっちに戻ってどんなに望んでも見せてもらえなかった、
あのころに見ていた無垢な笑顔だった。
「えっと、おじいちゃんはゆっくり着いてきてね。くれぐれも無理しないで」
「あ、ああ、おれのことは気にしないでいいからな」
おれはゆっくりふたりの後ろを付いていった。
次々と乗り物に乗って、はしゃぐ二人。
おれはその様子を少し離れた場所から見ていた。
あいつは、ただ彼女と遊んでいるだけのようにしか見えない。
今のところ殺意など、どこにも感じられなかった。
おれの考えすぎだったのか?
(……違う。見た目に騙されるな。あいつはやる)
けれど、ふたりの笑顔を見ているうち、
こんな風に笑っていられるなら、このままでもいいんじゃないか……
そんな甘い希望が、おれの頭をよぎったとき、
「じゃさ、次はあれに乗ろうよ!」
あいつがそう言って指差した先には、
巨大なジェットコースターがそびえていた。




