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せめて

暗闇の空間のどこか遠くで、小さな声が響いてきた。


ね……


ねえっ……


おじい……


これは、彼女の声。


おれはまた戻ることができたのか?


理由はわからなかったが、おそらくはジョーカーのおかげ。


「ねぇ……大丈夫っ?」


目を開くと彼女の顔があった。

血色の悪い頬に涙が滲み、瞳は揺れている。


「よかった、目が覚めたんだね」


彼女の声は震えていた。


その姿を目にして様々な想いが渦巻いた。


彼女を悲しませた申し訳なさ、

何もできなかった自分の情けなさ、

それでも、また戻ることができた安堵、

おれの気持ちはぐちゃぐちゃになっていた。


でも、今はその感情たちに流されてる時間はない。

今すぐにするべきことが、おれにはあった。


遊園地に行くな、そう彼女に伝えなくては……

声を出そうしたが、口は閉じたまま動いてくれない。

身体は完全に麻痺していて、この気持ちに拒絶反応を示している。


「まだ無理しちゃダメだよ。鎮痛剤が効いてるから、安静にしてなさいって」


(お願い、行かないでくれ…)


おれの心は叫びつづけていたが、彼女には届かない。

戻ってきたのに、伝えることさえできないのか……


彼女はこちらに優しい眼差しを向けて、


「じゃあ、今日は帰るね」


その声の背後から甲高い声が響いた。


「うん。早く、帰ろーっ」


やはり、やつはすぐそばで待っていたのか。

おれが死ぬのを待ち構え、彼女が崩れる姿を嘲笑いながら眺めていたに違いない。


もう十分に楽しんだだろ?


おれがやつに視線を向けると、


「ねぇ、なんか苦しそう。あの顔、怖いよ」


彼女の細い手を握りながら、怯えたふりをしている。


「そんなこと言わないの、まだしんどいんだから」


ふたりが、おれを残してゆっくりと病室を出ていく後ろ姿がぼんやり見えた。


全身の力を振り絞って、やつを殴り倒したいと思った。

たとえ彼女に嫌われても構わない。


これが殺意ってやつか……

お前の感情がやっとわかったよ、おれも一緒だ。


お前だけは絶対に許せない。

子供だろうと関係ない。


何とか立ち上がろうと身体に命じたが、強烈な痺れが全身を締めつけた。

やつは一瞬こちらを振り返り、舌を出して部屋から消えていった。


彼女に憑りついた魔物め……


おれがお前を退治してやるよ。

怒りが身体中に染み渡っていくのを感じていた。

この怒りが、生き続ける糧となるのかどうか、そんなこと知るわけがない。


だが、おかげでおれの中にあった迷いは消えた。


あとは、せめて明日まで、


この怒りの感情がおれを生かしてくれることを願うさ。

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