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綺麗事

ジョーカーの言葉を気にしながら、1日を過ごしていた。


あいつがどうやって現れるのか、ノックの音に敏感になっていたが、


部屋の向こうから現れるのは、看護師ばかり。


彼女からの連絡もなく、このまま1日が終わる。


晩御飯が終わってそんなことを考えていると、


薄暗い病室のドアが静かに開いた。


「こんばんわ……」


彼女がどこか申し訳なさそうに入ってきた。


「おお、来てくれてたのか」


「遅い時間にごめんね」


おれは笑顔を返そうとしたが、背後から違う声が割りこんだ。


「ごめんねー」


彼女のすぐ後ろにやつがひょっこり顔を出していた。


「もう、マネするんじゃないの」


彼女は苦笑いを浮かべながら、やつに声をかける。


声の先に見えるあどけない子供、

見た目は穏やかだが、その目には底知れぬ闇が潜む。

それを知っているのはおれだけ。


「この子がどうしても、今から行きたいってうるさくて」


彼女は嬉しそうに微笑む。

彼女にとってやつは、死の淵から救い上げた恩人、

それに子供だし、何を言っても多少のわがままは通る。


「ぼくが、お願いしたんだぁ」


あいつは、昨日と同じ笑顔をおれにチラつかせる。

何かを考えている、そんな笑みだった。


二人が目の前のイスに座ろうとするタイミングで、

おれは彼女に慌てて声をかけた。


「悪いが、売店で歯ブラシを買ってきてくれないか?今のやつ、硬くてな」


彼女は頷いたあとで、やつに向かってこう言った。


「おとなしくしてなさいよ」


悔しいが、それはまるで母親のような口調だった。



部屋のドアが閉まる音が消えると、やつが低い声で囁いた。


「やっと会えたな。お前が来るまでわざわざ待ってたんだぞ」


ニヤリと笑うその顔は、先ほどまでのそれとはまるで別人だった。


おれはぎりぎりの冷静さを保ちながら、問いかける。


「彼女をどうするつもりだ?」


「あ? 殺すに決まってるだろ」


やつの言葉は、氷の刃のように冷たかった。


「子供に何ができる?」


「老人に何ができる?」


反論しようにも言葉が出ない。


「子供には優しいもんだよなぁ、なんでも聞いてくれる。楽だぞ」


楽しげに嘲笑うその姿を見ながら、憤りが増していく。

こいつは、彼女を単なる道具としか考えていない。


「やめろ。それは彼女がお前に心を開いているからだろ」


必死に食い下がると、


「ああ、それを裏切るのが楽しいんだよ。お前は忘れたのか? おれたちは裏切られたんだぞ」


おれたち、か。


胸の奥で、凍りつくような痛みが走った。


「そ、それは彼女だけのせいじゃない。お互いに悪かったんだ」


「さすが、善人の綺麗事を言うんだな」


「……そんなことない」


「やめてほしいなら、お前が死ねばいいだろ。彼女を救いたいもんな」


「おれが死んだら何もしないのか?」


「ああ、おれは約束は守るさ」


「なんで言い切れる?」


「元はお前なんだし、それくらいわかるだろ?」


否定できない事実を、淡々と並べてくる。


「でも、おれはもうじき死ぬんだぞ……」


「ほんと哀れだな」


「これから、おれは注射を打たれる。気休めだけの延命作業らしいが、どのみち近いうちに死ぬ。これで十分だろ?」


「それじゃ普通すぎるな、彼女の目の前で死ねよ。死ぬところを見せて、彼女をボロボロにするんだ」


やつは目を輝かせながら、話す。


「……それは、できない」


死ぬことが許される場所じゃないし、病院で自殺なんてできるわけがない。


「なら、彼女を殺すだけさ」


やつは、当たり前のようにそう言い放った。


それに対して返す言葉が浮かばず、気味の悪い沈黙が続いた。


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