裁判官
暗闇の上には光があって、人が存在した。
数秒前とまったく違う状況にかなり、戸惑った。
ちらちらと室内を見渡していると、学校の教室をふと思い出した。
三者面談のときにこうやって反対側に先生が座り、
自分と母親が一緒にこちら側に座っていたあのときによく似ている。
目の前に座る人らしきものは、椅子に座るよう促したあと、こう言った。
「わたしは現世でいう裁判官、つまり死んだ人間の道を裁くものです」
「裁判官?」
「ええ、本来の名前はもう忘れましたが、みんなは、わたしをJと呼んでます」
「裁判官のJ、さん、ですか」
「ジョーカーのJです。何人かいる裁判官の中で一番、厳しいと皮肉ってつけたのでしょう」
感情ない平たんな口調で淡々と話していく。
「そ、そうなんですか」
「あ、普段通りの話し方で大丈夫ですよ。敬語を使うタイプじゃないでしょう、あなた。では」
と言って本題がはじまった。
「まず、あの少年ですが、助けてくれたことに感謝します」
その言葉を聞いて、あの子が幻想でなかったと理解した。
「あなたの言った通りです、餓死は殺人ですからね。どうやら、死にたい境遇にはあったようですが」
「調べてくれたのか?」
「もちろん、あなたに成り代わって、責任を持って対応しましたよ」
「あ、ありがとう」
「こちらこそ礼を言います。最近、死亡パターンが複雑化したせいで部下たちの対応も曖昧なことが増えています」
表情が見えない相手と話すことに戸惑いを感じたが、敵意はない様子だ。
「はぁ」
「先日も転落死と言って、同じくらいの子供がこっちにきましたが、よく調べてみると、親がマンションのベランダから突き落としていたんですよ」
「それも殺人じゃ……」
「いえ、正確には、勝手に落ちる準備を施した。わざわざベランダに椅子を置いて、外から子供を呼んだみたいです。子供はその声に反応して、椅子に登って、手すりを乗り越えました」
「計画的だったと?」
「はい、ただ地上では事故死として処理されてました、向こうでもこちらでも、裁くのは難しいみたいです」
「親は何のために、自分の子供を殺した?」
「飽きですよ。ペットと同じです。最初はかわいかったのに、そのうちに飽きがきて、もっと楽しいこと、楽しいものに目が移っていった。そうなると、子供なんて邪魔なだけでしょう」
「自分勝手な話だよな、そんなの人間じゃ……」
そこまで言いかけて、言葉を閉じた。
その通りだ、結局、おれもそうだったってこと。
彼女にとって、おれは飽きの対象になってしまった。
だから、おれから離れていった。
飽きがきて、そのうちに忘れていく。
それが人間なんだ。




