明日。
ジョーカーはしばらく黙っていたが、
「でもまぁ、女性ってわりと子供に甘いですしね。お年寄りよりは可愛い方が得、ってとこでしょうか。もちろん、あなたには年の功って武器がありますけど?」
冗談めかして笑いながら話す。
「年の功って、おれはまだ10代だろ」
「あら失礼、すっかりその外見に洗脳されたかと、よく似合ってましたし」
これは、からかってるよな、
思わずため息が漏れた。
こっちは真面目に悩んでんだよ。
「でも……少し、安心したんじゃなくて?」
「何がだよ」
「彼女の傍にいるのがあんなに小さな子供なら、さすがに今すぐ彼女を傷つけるみたいな芸当はできませんわ。物理的には、ですけど」
「中身が10代でもか?」
「個体の問題ね。知恵だけで人間をどうこうできるなら、世の中はもっと天才犯罪者だらけですわ」
言い返せなかった。
確かに、いくら頭があいつでも、肉体的な限界はある。
あのストーカー事件のときだって、おれのこの身体でもなんとか押さえ込めたくらいだ。
……でも、それでも、なにかが引っかかる。
あいつが、このまま何もせずに終わるわけない。
何より彼女の心を開かせてる時点で、おそらく
あいつの計画の第一段階はクリアしている。
「まぁ、あんな仲良しっぷり見せられたら、焦ってしまうのも分かりますけど」
おれの決意はあの時、固まっていた。
けれど時間が経てば経つほど、確信が揺らいでいくのも事実だった。
「でもね、冷静さを失うと命取りになること、忘れないでくださいましね?」
「なぁ……お前は一応、味方なんだよな?」
「敵ではありません。少なくとも、今のところは」
相変わらず、おれの心を探るような安心できない言い回しだ。
「アドバイスのひとつもくれないのか?」
「仮に、わたしの助言であなたが勝ったとして、それで本当に満足できるんですの?」
「彼女を守れたなら、それでいいさ」
「ふーん……それ、たぶん嘘ですわね。だから、わたしは何も言いません」
ハッキリと言われると、ぐうの音も出ない。
こいつ、どこまで見透かしてやがる。
「分かってるよ。でも、相手が子供だと思うと心が疼くんだ」
「でしょうね。まぁ、あの子の中身のほうは、そういうの一切容赦ないでしょうけど。例え相手が老人だろうと」
……やっぱりそうだよな。
おれも、あいつと対等の覚悟で向き合わないといけない。
もう、時間がないんだ。生きてるうちに決着をつけなきゃならない。
「ところで、今回はなんで来たんだ? ただの冷やかしか?」
「いえいえ、わたしはあなたの味方ですもの。ちゃんと、伝えるべきことがあって来ましたわ」
「伝えること?」
「ええ。明日、あいつがここに来ますよ」
「……はぁ?」
あまりにも唐突すぎて、思わず場ちがいな声が出た。
「展開、急すぎないか? まだ心の準備ってやつが……いや、そもそも病院じゃ何もできないだろ」
「そうですねぇ。ですが、一応、気をつけてとは言っておきますわね?」
にっこり笑って、ジョーカーは病室を後にした。
あいつが、来る。
おれはそっと電気を消し、ベッドに体を沈めた。
目を閉じて、考えるつもりだった。
今のうちに、何ができるか、どうすべきかを整理しておかないといけないのに、
脳裏に浮かぶのは、どうしても彼女のあの笑顔ばかりで、
他には……何も、浮かんでこなかった。




