嫉妬心
その夜、病室で天井を見つめながら、ひとり考え込んでいた。
……子供、だったのか。
しかもやつは、よりによって彼女に心を開かれてる。
それもただの好意じゃない。
おれの面影を投影されて、心の拠り所にされてるんだから、性質が悪い。
彼女は、命を狙われてるなんてみじんも思ってないだろう。
そもそも、あんな子供がどうやってひとを殺すっていうんだ。
体格的にはまだ彼女にも勝てないだろ。
ちっこくて、腕も足も細くて、風が吹いたらよろけそうな体型。
でも、中身は完全にあいつ。
あの異常な思考回路が、子供の脳みそにインストールされてる。
あいつは何かを企んでいて、
おれは、それを止めなくちゃいけない。
だけど、自分が犯罪者になるわけにはいかない。
それに、やつは今の彼女にとっては唯一の救い。
そんな存在を、おれがこの手で奪ってもいいのか……
冷静になればなるほど、思考がマイナスになっていく。
あいつを殺さないなら、なんのために戻ってきた?
彼女に、おれの最期でも見届けてもらうためか?
わからない。
なにが正しいのか、どうするのが正解なのか。
結局、深くため息をひとつ吐くことしかできなかった。
もし、あいつとおれの立場が逆だったら……
そんなくだらない妄想をして、やつを羨ましがっている自分がいた。
そのときだった。
「それはもう、仕方ないことね」
唐突に、そんな言葉と共に看護師が病室へ入ってきた。
もちろん、中身はすぐに分かった。
「……知ってたんだよな?」
ベッドから体を起こしながら問いかけると、
ジョーカーは涼しい顔で頷いた。
「ええ、当然ですわ」
「お前が、やつを彼女に会わせたのか?」
「いえいえ、人聞きの悪い。私がわざわざ、そんな手間をかける理由がどこにありますの? あくまで偶然。運命ってやつですわ」
相変わらず、どこまでが本当か分からない反応だが、
部下のミスとは言え、ジョーカーもやつを捕まえたいはず。
だとしたら、彼女に近づけたメリットは何がある?
考えられるのは、そうすることで二人を同時に監視できる。
彼女を囮として使ってるとも言えるが、それは決して間違いじゃない。
少なくとも、いま、おれがこうやって動かないうちは……
「ああ、そうだな」
おれには、そう応えるしかできなかった。
「まぁまぁ、素直でよろしい。でも、子供に嫉妬するのは、ちょっと大人げないですわよ?」
「からかうな。そんなわけないだろ」
そう言いながらも、心のどこかで引っかかってる自分がいるのが分かる。
彼女の、あの笑顔。あの子に向けられた、柔らかくて、どこか安心した顔。
やはり、嫉妬心なのか……
死んだいまさら羨ましいなんて、ないはずだったんだけどな。




