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無気力

無気力とは、こういう状態を言うんだと理解した。


あれからしばらく、抜け殻のようにぼうっと何もする気が起こらず、

病院での規則正しい生活の流れのまま時間だけがムダに過ぎていく。


ジョーカーの話が正しければ、こっちにいられるのは残り2週間ほど。


彼女からの連絡は、あれ以来なかった。

あのストーカーが、やつじゃないなら、あの一件で諦めたのか、

あるいは、彼女が気を遣って連絡してこないためなのか、

ま、どっちでもいい、とにかく彼女と関わることはなかった。


あいつはすでに彼女に接していると、ジョーカーは話していた。

本来なら、一刻も早くその手がかりを探さないといけないはずだろ?


そう自分に言い聞かせてみるのも、一瞬のことで次第に気持ちは冷めていく。


向こうから連絡がないから、自分から連絡をなんて気分にはならないし、

もし連絡してもきっと障りない話をするくらいしか、いまのおれにはできない。


おれは何の力もない、ただの老いた死にかけの男にすぎない。


鏡を覗くと前より数段、顔つきがげっそりしたように思える。

これで2週間も保てるんだろうか、とぼんやり考えていると……


「コン、コンッ」


ノックがしたあとで、彼女の母親が入ってきた。


「なんかこの部屋の雰囲気、暗すぎますよー、どうかしました?」


「あ、ああ、例のストーカーはどうなったのか少し気になってな」


おれは祖父として彼女のその後を聞いてみた。


「あれから何もないみたいですよ。でも、もうあんなムチャはしないでくださいねっ」


冗談まじりに怒られたが、実際、その通りで、この年齢には不相応な行動だったと反省した。


「心配かけてすまなかった。他に何か変わった様子はないか?」


「なんですか、いきなり」


「いや、何となく不安になるんだよ」


「そういうときは、あの薬をちゃんと飲んでくださいっ」


この前の看護師が話していた安定剤のことらしい。


「最近、忘れっぽくてよく覚えてないんだが、何で抗がん剤でなく、安定剤なんだ? がんの治療はしなくていいのか?」


おれの説明がたどたどしかったせいか、

おかしなことを言ったせいかわからないが、

母親は少し戸惑いの表情を見せながら、


「あら、もう覚えてないんですねー。でも、良かったのかな……抗がん剤の治療は自分で中止したでしょ」


「ほんとに、お前はそれで良かったと思うのか?」


「お父さんが選んだ道ですよ。だから余計なことは考えずに、自分のために残りの時間を使ってくださいね」


その言葉は、明らかに死を前にしている人間に向かっての言葉だった。

でも、彼女の話し方は、なぜだか、どこかホッとしてるように聞こえてきた。

どう考えても、そこには違和感があった。


「ええ、その通りですよ。お父さんがこのまま亡くなるのを、みんな望んでいます。あの娘を除いて」


母親は満面の笑みでおれの方を見ながら、そう話した。

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