後悔。
ジョーカーに対する気持ちがもうよくわからなかった。
彼女の話すことは冷静かつ正しかったし、女神に見えたことさえあった。
ただ、よくよく考えてみると……
生まれ変わった肉体は、死が間近に迫っている老人、
しかも、彼女の祖父である以上、やつを殺すのは困難。
今のこの状況をジョーカーなら、予見できていただろう。
その上で、この老人に生まれ変わらせたのは、
彼女にまた会える機会を与えるという優しさのつもりか?
もし、そのためだけに生まれ変わらせたとしたら、
それは優しさじゃなく、陰湿なイジメと変わらないぞ。
これってぜんぶ、どうせ伝わってるんだよな。
「あー、あっさりバレるとはつまらないですわ。このパターンも、そろそろ限界かもなぁ」
「おれを監視してるのは、そんなに楽しいか?」
「監視ですって? これはあくまで裁くものとしての義務です。あなたは一応、脱走した犯罪者でしょ?」
「じゃ、いっそ捕まえて、あっちに連れていってくれないか」
「はぁ、そんな言葉をあなたから聞くなんて……そうとう心が弱ってますわ。その身体もすぐに悪化しますよ」
「もうそれで、いいさ」
自分が投げやりになってるのは、よく理解していた。
こっちに戻ってきたことへの後悔の念が広がるにつれて、
過去に抱いたさまざまな後悔が、はっきり記憶に蘇ってくる。
彼女の目の前で、ナイフを突き出して怖がらせてしまった後悔。
彼女が親友を好きになったことに対して、何も言えなかった後悔。
そして、自分が死んだあとも、彼女を見守る約束を守れなかった後悔。
振り返ると、おれの人生は後悔ばかりだった。
ぜんぶ自分のせいなのに、何かのせいとか誰かのせいとか理由をつけて直視しなかった。
今だってこっちに戻ってきたことを、ジョーカーのせいにしようとしている。
「そうね。でも、そういった後悔があったから、いま、ここにいるんでしょ?」
「だから今、ここにいることを後悔してるんだって!」
「このまま、あっちの世界に戻ってもどうせ、また後悔するだけじゃない?」
「ああ、そうかもな。結局、おれはそんな半端なやつなんだよ」
「わたしに熱く語ってくれた彼女への愛情は、そんなものだったの? がっかりだわ」
「それは違う、ただ……」
「あいつを、どうすることもできないのね」
「ああ」
「ひとつ、言ってあげる。あのストーカーは……違うわよ」
「……そうか」
「あら、何でそんな反応なのかしら、嬉しくないの?」
「相手が変わったとしても、おれは変わらない。なら、状況は同じだろ」
「それって、つまり?」
「おれに彼女を救うことはできない……」
「あなたには今、肉体があって、彼女と直接やりとりもできる。それなのに、ここで諦めるつもり?」
ジョーカーの言うことは、その通りだし正論なんだろう。
実際、肉体的な問題だけなら、考えたら何か浮かぶ可能性はある。
ただ、おれは彼女の祖父として犯罪者になってはいけない。
この老人を犯罪者にさせることなく、やつを消すしかない。
だが、そんなこと現実にできると思うか。
何も思いつかなくて、考えるほど頭がおかしくなってくる。
こんな状態で、どうやったら前向きになれるんだ?
「あなたのそれも正論ね。わたしはあなたを信じてた、でも少し深入りしすぎたみたい。じゃ、さようなら」
ジョーカーはそう言い残して、部屋を出ていった。




