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副作用

ゆらゆらと身体が揺れている。


目の前は真っ暗で何も見えない。

ただ、無の世界の漆黒の闇とは違う気がする。


それに、この身体の揺れは、どこかから伝わってくる、

誰かが、おれの身体に触れている感覚。


揺れは激しくはならないが、止まることもない。

一定の間隔で、絶えずこの身体を揺らしている。


右手に何かが触れる感覚が加わった。


闇の向こうから、よく聞き取れない声が聞こえている。

こんなに安心感のある闇なんて無の世界なわけがない。


このまま、あっちの世界に戻ってもいい、

そんなことをぼんやり考えていたんだが……


目の前の闇は次第に、薄ら灯りに変わっていく。


瞼が意思を持ったかのように上下に動きだして、

視界の先に、おれの顔を覗きこむ看護師の顔が現れた。


「大丈夫ですか? なかなか目を覚まさなくて心配しましたよ」


「お、おれは?」


「何があったんですか? 見回りにきたら着替えもせず倒れてましたけど」


あのまま寝てしまったのか……


「久しぶりに孫と会ったのが嬉しくて、つい歩きすぎて疲れが溜まったんでしょう」


「久しぶりだったので、無理をされたんでしょう?」


「無理というか、少し緊張しましたね。タクシーの運転手はへんな顔で、こっちを見てましたし」


と笑い話のひとつとして話したつもりだったが、


「やっぱりそうですか、あれは薬の副作用で気を失った様子でしたよ」


看護師は深刻そうな顔で返事をした。


「副作用?」


「もしかして、忘れていますか? 前にもお話しましたけど……」


「抗がん薬にそんな副作用が?」


「えっと、飲まれているのは精神安定剤ですよ」


「安定剤? そうでしたっけ? すみません、よく思い出せなくて」


意識が戻ったとたんに、また頭が混乱してきた。


もちろん、おれの知識は高校生レベルで、

薬とはほとんど無縁だったし、詳しいことはわからない。


それでも、常識として知っている範囲で考えると、

がん患者に対して抗がん薬を使わないケースは、

抗がん薬の副作用が強くて断念してしまう例外を除くと、

それは通常、自らの生を放棄したことを意味する。


そんなことを考えていた、おれの不安そうな様子を察したのだろう、


「安心してください、軽い記憶障害の一種だと思います」


看護師がやんわりと口を挟んだ。


「はぁ」


「今回は病室でよかったですけど、意識を失うタイミングによっては死にも繋がります。くれぐれも心身に負担はかけ過ぎないよう気をつけてくださいね」


「すみません」


「今は大丈夫そうですし、一旦、詰め所に戻りますね。何かあったらいつでも呼んでください」


と言い残して、看護師は部屋から出ていった。


心身の負担、か。

実際、この肉体は何の役にも立たない邪魔ものにすぎないし、

彼女の祖父であるという立場も、今となっては悩みの種でしかない。


こんな絶望的な状況になるくらいなら、

向こうで彼女が来るのを待っていた方がマシだったんじゃないか?


先のことを考えず、感情に任せて行動した結果がこれか、

おれは何も変わっちゃいない、単なるガキなん……


「コンコンッ」


おれのその思考を遮るように、ドアが一瞬で開いた。

呼んでもないのに、先ほどの看護師が部屋に舞い戻ってきて、


「あのー、そんなマイナス思考で、あいつに本気で勝つつもり?」


そんな手荒な言葉を投げてきたが、もうおれは驚きもしなかった。

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