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不死身

久しぶりに病室を出たせいか、頭が混乱しているせいか、

あるいは、この病気が悪化しているせいなのか、

ふいに立ちくらみがして、一瞬、目の前が真っ暗になった。

その真っ暗な中に、顔のわからないもう一人のおれが現れた。


今は、こいつのことだけ考えてたらいいんだよな。

それ以外の情報は、おれが考えても仕方ないことで、

この老人が抱えていた問題に悩んでも無意味だろと心を切り替えた。


おれは病院の前にいたタクシーに乗り込み、彼女が教えてくれた場所を告げた。


「すみません、少し急いでもらえますか?」


おれは丁寧に話したつもりだったが、


「あ、す、すみません。わかりました」


と慌てた声で、運転手が返事をした。


それからは、ミラー越しにこそこそとこちらを見てきた。

スキンヘッドにマスク着用、加えて服装はサムエ。

そりゃ、普通はあまり見かけないかもしれないが、

そんなにこの外見は恐ろしいのか。


身内や病院関係者は、この姿を普通に受け入れていたが、

本来は、これが普通の反応なんだろう。


そう考えると思わず、ため息が出てくる。

今更ながら、大変な生まれ変わりにしてくれたよな。

いっそ、やつもこの外見にびびってくれたらいいんだが、

ま、それは無理な話か……


コンビニに着くと、すでに店内で彼女が待っていた。


「早かったねー」


「ああ、タクシーを使ったからな」


「えーっと、他に着る服なかったの?」


「あ、ああ、変かな?」


「いつも着てたのは知ってるけど、お母さん、他に用意してなかったのかな」


「きっと、外に出るなんて思ってなかったんだろ」


「そうだね、でも、それなんかよく似合ってるし、いいかも」


「この顔にってことだろ?」


「えと、内緒」


一瞬でも、彼女の笑顔を見れたことで、おれの気持ちはすっかり落ち着いた。


「で、どんなやつなんだ?」


「今どきのパリピって感じかな」


となると、やつは若いってことか。

体力勝負では、厳しいだろうな。

一緒に歩きながら、どうするか考えていると……


この道はたしか……

ふと周りの景色に目をやる。


影になって彼女の後ろ姿を見ていた場所だった。

同時に、何度も彼女を家まで送っていった道のりでもあった。

まだ数ヶ月しか経ってないのに、その景色を懐かしく感じた。


日も暮れて街灯が、うっすらと光っている先を指差して、彼女が小声で言う。


「……あれ」


目をやるとマンションのエントランス前で、

若い男がしゃがんで、タバコを吸っていた。


あれか。


「じゃ、行ってくるか。お前はここにいなさい」


「ほんとに大丈夫?」


「おじいちゃんは不死身さ。知ってるだろ?」


おれは笑顔でそう答えると、マスクを外して男の方に向かった。

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