バイト
彼女の言葉を聞いて、
「キャバ、嬢」
と彼女のセリフを繰り返したあと、言葉が続かなかった。
ほんとはすぐに、怒鳴りたかった。
だけど、今のおれは、おれじゃない。
彼女が何をしようと口を出す立場じゃない。
ただ、これは祖父としても言うべきではないか……
目を逸らしたままの、彼女にそっと尋ねた。
「なんで、キャバクラなんかに? お金が欲しかったのか?」
冷静を装ってきくと、彼女は、小さく首を振った。
母親が二人の会話の間に入って、
「おじいちゃんに、ちゃんと理由を話してあげなさい」
と、自分の娘に話すように促した。
「う、うん」
理由があった、それも当たり前か。
彼女=キャバ嬢、というイメージがどうしても繋がらない。
「わたし、大切な人を失ったの」
「失恋か?」
とあくまで、祖父として質問した。
「そんな感じ、かな。でも、頑張ろうって思った。だけど……」
少しの間があって、
「だけど、頭じゃわかってても、身体は正直だった。夜になると寂しくて、寝れなくて」
やっぱり、おれのせいか。
「そうだったのか……」
「うん、だから、夜がとても怖くて。そんなとき、声をかけられたの」
人間、弱ってるときは流されやすいものだ。
そして周りにも、それが伝わるのか、弱った相手はなぜか話しかけられやすい。
「周りはみんな受験で頑張ってるのに、わたしは毎日、家で何もしないまま、時間も止まったような感じで、これじゃダメだって……」
で、選んだのがキャバクラか。
「バイトしてても楽しいなんて、思わなかったよ。ただ、周りにひとがいると、夜でもひとりじゃないと思えたの。で、気がついたら朝になってて、あー、また一日をやり過ごせたんだって安心できた」
「そうか、辛かったな」
彼女は、少しにっこりして
「おじいちゃんみたいに、人生経験ないからねー。単純なわたしには、そうするしかなかったの」
「じゃあ、なんでやめたんだ?」
「それは……」
彼女がもぞもぞ話しづらそうにしてるのを見て、
「お客さんに、ストーカーされたんですよ」
母親が代わって答えてくれた。
「ストーカーに、遭ってるのか?」
「ええ、何度か家の前まできてたらしくて、ほんとに怖いですよね」
もしかして……
「それは、最近のことか?」
「う、うん。初めてお店に来たのは二週間くらい前だよ」
なるほど、客として彼女に近づいてきたわけか。
「今も付きまとったりしてるのか?」
「メッセージとか、電話は来てるけど、ぜんぶ無視してるよ」
母親が言う。
「やっぱり警察に相談した方がいいんじゃない?」
警察がこの程度の話で動いてくれるだろうか?
この手のことは実際に何か起こらないと、難しい。
せいぜい数回の見回りか、話を聞くだけで終わりだろ。
それに、もしあいつなら警察なんて何の意味もない。
あいつを何とかできるのは、おれしかいない。
今の、この身体で何ができるかわからないが、
この命を懸けてでも、おれが彼女を守る。
ようやく、おれの出番が回ってきたんだ……




