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トイレ

トイレにいきたくて、ふと目を覚ますと、


電気はすべて消えていた、おそらく夜中なんだろう。


暗いせいもあって、さっきより視界がさらに悪かった。


暗がりでよく見えないが、ソファで誰かが寝ている気配がする、


おそらく、付き添い人ってことか。



その人物を起こさないようにゆっくりと立ち上がろうとしたが、


体がミシミシと音をたてるだけで、思うように力が入らない。


仕方なくうつ伏せの状態でベッドの端までズレていって、


そこから何とか手を伸ばし這うようにして、床に降りた。


ソファの横を四つん這いのまま進んで、トイレの前までたどり着いた。


トイレのノブに両手を伸ばして、それを支えに何とか立ち上がれたが、


すぐに足元がふらついて、手前の壁にもたれかかってしまう。


こんな簡単な動作なのに、次第に呼吸も荒くなっている。


どうやら、この身体はかなりのポンコツらしい。


入院してるから、それも当然だったが、前の身体とつい比べてしまう。


そういえば、おれは亡くなる間際に病院に運ばれたが、


それ以外、大きなケガをしたことはなかったし、


入院というものも経験したことがなかった。


当時は思ったことなかったが、おれは健康な身体だったんだな。


新しい身体が何で入院してるのかわからないが、


これだけ自由に身体が動かないなら、簡単な病気ではないと推測できた。



時間をかけて、何とかトイレを済ませて、ほっと一息つきながら、


(おいおい、こんなことに何分かかる。情けないよな)


などと思いながら、洗面所で手を洗っていると、


目の前に映る鏡の向こうに、人らしき気配を感じた。


……


……


ほんとの恐怖は声にならないというが、


まさにその通りだった。


今ここで、やつが登場だと?


おれの背後から、こっちを見ながら微動だにしない。


どうやってここにいることがわかった?


どうしておれだと、わかった?


……それより、これからどうする?


鏡を覗きながら様子を見ていたが、向こうは止まったままだ。


その隙を見て、反射的に両手を上げて身構えた。


すると、やつも両手を上げて対抗する。


暗くてわかりにくいが、見た感じ男性だろう。


しばらく睨み合いが続いた、そのおかげで薄暗さに慣れてきたのか、


相手の外見が少しずつわかってきた。


身長は低め、猫背で腰が曲がっている感じ、体型はかなりの細身。

ただ、その顔面だけは険しい形相で、鏡越しに今も睨みつけている。


「おい?」


付き添い人を起こさないよう、小声で話かけるが反応はない。


まるで、魂を取られた抜け殻状態だな。

こんなやつなら、何とかなるだろ?


おれは身構えていた姿勢のまま、素早く背後に向き直る。


……と、目の前には誰もいない。


一体、どこに行った?


病室に目を向けると、付き添い人が寝息をたてている。

あれは、目を覚ましたときに聞いた声の女性か。


ただ、それ以外の人間はどこにも見当たらない。

そもそも、こんな狭い一室のどこに一瞬で隠れられる?

無理な話だよな。


もしかして、前のときのように消えたとか?

いや、あれはあくまで死んでいたからできたこと。


やつも人間に生まれ変わったとジョーカーは話していた。


生まれ変わる………


待てよ……



もしかして、


おれはまた鏡の方に向きなおった。


目の前に、ぼんやりと顔が映っている。


おれは鏡にもっと近寄ってみた。


すると、向こうの顔も近づいてきた。


はっきりと見えた、年老いた男性の顔。



これは……おれの生まれ変わった姿、か。


あいつから彼女を守るために、現世に戻った。


その生まれ変わりが、この老人。


この身体を使って、あいつから彼女を守れってことか。


むちゃな宿題を与えてくれたな、ジョーカーさんよ。

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