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リアル

ぼんやりとしか見えないが、周りには複数の人影があった。


白い服を着ている人影は、おれが目を開いたことに気づいたらしく、


「おい、まだ死んでないぞ!」


と大きな声をあげると、


「先生、ほんとうですかっ?」


女性らしき声が聞こえた。


おい、待てよ、先生って……


首をゆっくりと動かして、周りを確かめようとしたが、


なぜか、視点がずれてぼやけて見えてしまう。

目の前に一つの人影が近づいてきて、


「もう大丈夫ですからね」


と言いながら、おれの身体に手を伸ばして、

注射らしきものを突き刺した。


ピッピッ……ピッピッ……ピッピッ…

近くで聞こえるこの機械音を、おれは知っていた。


あの日、事故に遭ったとき、救急車の中で聞いたのと同じ音。

心拍数や、血圧、血中濃度とかそういったのを測る医療器具だったな。

機械音が聞こえてくるってことは……おれが生きていることの証明、

つまり、先生と呼ばれる人間は医師であって、ここは病院。


恐れていた地獄じゃなく、ここは現実ってことらしい。

しかも、あのトンネルをくぐっているときに味わった感覚、

時間が巻き戻るような感じがしたのが、本当だったとしたら……


病院とおれを結びつけるのは、あの事故しかない。

事故を起こしたあと、おれは病院に運び込まれた。

つまり対象者と呼ばれていた人間は過去のおれ、なのか?


そんなこと普通ならありえないと思うだろうが、

あっちの世界での経験をした後なら、何でも信じるさ。

だから、この場に戻してくれたと考えても不思議じゃない。


おれは覚えている限りの記憶を振り返ってみた。

向こうで意識が戻ったとき、おれは闇の砂漠にいた。

それから、ジョーカーに出会って、闇から救われた。

ジョーカーはおれに現世に戻って彼女を助けるよう話した。

そして、ケイという子供に出会って龍か馬かわからないものに乗って、

空の上から、つき落とされた。


ああ、やっぱり今もしっかり覚えてる。

こんなリアルな夢があるわけない、実際にあったことだ。


ジョーカーはおれが交通事故を起こした直後、

その時間まで戻して、現世に生き返らせてくれた、

そう考えるのが、一番自然だとホッと息をついたあと、


いや、待てよ、すぐにその考えは否定された。

だとしたらおれは死んでないことになる。


だが、心がふたつに別れたのは、死んだ後の話。

それに、ジョーカーはやつを処分するよう確かに言った。


そういえば、

さっき、聞こえてきた女性の声に聞き覚えがない。

声の感じからして母親と同年代っぽい感じだったが、

それでも、母親の声を聞き間違えるはずはない。

あれはたしかに別の声だった。


だとすれば、いったい、おれは何者だ?

何がどうなってるのか混乱する思考が徐々に鈍っていく。

さっきのは鎮静剤か何かの注射だったんだな。


ぼーっとするなかで、嬉しそうな声や泣きだす声が、

エコーのように響いてた。

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