案内人
部屋を出て、ドアを閉めたとたん、先ほどまでいた建物は消え去り、
外には真っ白な草原が広がっていた。
草原には馬らしき動物たちがのんびりと草を食べている。
その動物たちまで白っぽく見えて、色彩が無くなった感覚だ。
ジョーカーさんよ、これって場所を間違えてないか?
きっと、この心の声も聞こえているだろうと思って、
独り言のように呟いてると、
「おーい、こっち、こっち」
草原にいた動物の一頭が、こちらに向かって走ってきた。
「おまえは」
降りてきたのは闇の砂漠で出会った、あの子供だった。
「お、あのときより元気そうになったな」
「もしかして、ジェーが話してた、ぼくを助けてくれたひとっすか?」
「助けたってほどじゃないけどな」
「あんときはやばかったんで。まじ、二人のおかげっすよー」
「お前が案内人なのか?」
「そーっす。ねぇ、あいつを捕まえに行くんでしょー?」
「何で、それを知ってる?」
「実は、あいつを運んでいったのも、ぼくっす……ごめんなさい」
「そうか、でも、別にお前のせいじゃないだろ?」
「でも、やっぱ責任を感じてるんだ。ぜったいに彼女さんを守ってよ」
「ああ、おれしか守れるやつはいないしな」
「へー、かっこいいっすね、それ。ぼくがちゃんと案内しなくちゃ」
そうだ、確か、この子は無から天国に行ったはずだったろ?
なのに、何で天国でなく、こんな草原の真ん中にいるんだ?
ジョーカーも話してたが、天国を嫌がるやつなんて普通はいないぞ。
「なんで天国に行かなかった?」
「……それは、天国には親がいるって聞いたからだよ」
闇のなかで見たあの衰弱した姿を思い出した。
おそらく何らかの虐待を受けていたに違いない。
なのに、なんでそんな親が天国にいることになる?
また間違ってるみたいだぞ、ジョーカーさんよ。
こいつの親を地獄に送ってくれ、聞いてるんだろ?
あとは、頼んだからな。
「それに、ぼくには、あんたらがいるっす」
「あー、おれが守るとか言ってしまったしな。あれ本気にしたのか?」
「え、もしかして勢いだったの? あのさ、泣いてもいいかなぁ」
「いや、冗談だって。つか、何て呼んだらいい? 名前は?」
「覚えてない、っす……でも、こっちではKって呼ばれてるんだー」
「ケイ?」
「そうそう、ぼくがジェーのあとを継ぐ予定なんっすよ。Jの次だから、K。すごいっしょー?」
見た目はまだ小学生の半ばくらいだろうか。
こんなに小さくして亡くなることになった。
親に抵抗さえできずに、さぞ辛かっただろうな。
「あ、案内役がこんなガキかよとか思ったっしょ? でもさ、ここではぼくが先輩っすよ」
ジョーカーと一緒で、おれの心が読めるのか?
たしかにこの子のほうが先に、あの闇から抜け出した。
そう言う意味では、間違いなく先輩ってことになる。
それに、こっちじゃ見た目は当てにならんようだしな。
今見えているこの子の姿は、まだ幸せだったときの姿、
虐待を受ける以前のもの、か。
「そ、そうだな、すまん」
「ぼくは、あっちとこっちを行き来するのが仕事ってわけ。でさ、そのときに使うのがこれっす」
と言いながら乗ってきた馬らしき動物を指さした。