にこり
本来は、女性と聞いて驚くべきだったのだろうか?
でも、仮面を被ってるし、言葉も淡々とロボット口調で、
つか、おれにはそもそも男とか女とかどうでもよかった。
そんなことより、時間ないなら早くあっちに向かわせてくれよ、
と思ってたんだが……
どうやら、それがまずかったらしい。
「ええ、あなたにはどっちでも良いことでしょうね。ただ、わたしは間違えられていて少々、腹立たしかったのですよ、おわかりで」
「なんか、その言い方、ジョーカーらしくないな。もっとロボットらしい方が似合ってるぞ」
「女性に対してロボットが似合うとか、失礼でしょ。それに何でそんな上から発言ばかりなのかしら?」
おいおい、前世を思い出したらいきなりキャラ変か?
つか、その記憶が戻るのは、今じゃなくていいって。
タイミング悪すぎだろ。
「そう言われましても、思い出したものは仕方ないでしょう。あと、声に出して言ってもらえません?」
「あのさ、そもそも最初に普段の喋り方で話せって、あんたが言ったんだよな?」
「それは思い出す前のわたしのことでしょう? それも理解できないなんて、そんなだから彼女の気持ちにも気づけずに……と、これはさすがに止めておきましょうか」
今、おれの目の前にいるのは、ジョーカーと呼ばれる前の心を取り戻した女性。
彼女が過去でどんな女性だったのか、外見はわからないがその性格は伝わる。
どちらかと言えば、彼女とは真反対の主張強めでめんどそうなタイプ。
ああ、間違いない、あんま関わりたくない苦手なやつだな。
「あんたのことはわかったよ。もうその話はいいから、向こうに行かせてくれないか?」
「ええ、彼女が待っていますもんね。苦手とか言ってたみたいだけど、それはお互いさま。とりあえず、女性とわかってもらえて安心したわ」
「話し方を変えなくても、その仮面を取ってくれたら早かっただろ。って、それはできないか。勘違いして悪かったな」
「仮面を取れとか、それセクハラ認定してもよろしくて?」
「ああ、何とでも認定してくれ。おれには時間がないんだろ?」
「そうですね。おかげで過去のわたしを思い出せましたし、あなたに出会えたことには感謝しないといけません。ありがとうございます」
と言い終わって、にこりと笑みを浮かべた。
目鼻立ちのはっきりした大人っぽい表情、
その笑みを見て一瞬、これは女神かと見惚れてしまった。
仮面を被っていてわかるはずもないのに、そんな映像が頭のなかを過った。