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異世界最弱のニート様 敵は異世界最強の勇者様? 俺 死亡フラグ回避するために棚ぼた勇者めざします!  作者: 風まかせ三十郎


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第58話 史上最弱? 棚ぼた勇者ここに誕生!

「おっ、あいつらだ。よかったな、蘇って」


 おねえさんが指さした先に、ヌメヌメと魔法陣から這い上がる大量の青スライムの姿があった。

 その中には抱き合って、涙ながらに再会を喜ぶ母子スライムの姿もあった。


「いや~~~~~、泣かせるねえ」


 疲労の極みにあったおねえさんが、ようやく笑顔を取り戻した。

 俺は屈み込むと、俺を命懸けで救ってくれた子スライムの頭を優しく撫でた。


「助けてくれて、ありがとうな」


 やがて子スライムは母スライムと手に手を取って、地面に染み入るように姿を消した。

 

 また駄菓子持って遊びに行くからな。


 俺は再び右手に念を込めると、青白い光を燃え上がらせた。それは掌一杯に燃え広がって、ひとつの光球と化した。

 炎の中に俺が見たものは、牝牛ちゃんたちとの思い出、楽しかった牧場の日々の生活だった。

 桜子、京子、優子、春子、夏子、秋子、冬子……。

 俺は一頭一頭の顔を思い浮かべながら、右手を地面に叩き付けた。

 瞬間、青白い炎が四散して、再び地面に魔法陣が浮かび上がった。それは見る見るうちに拡大して、巨大な円を成した。

 蘇れ、蘇れ、蘇れ……。

 

 俺は念じ続けた。


 蘇れ、蘇れ、蘇れ……。


 魔法陣から、誰も姿を現さない。


 蘇れ、蘇れ、蘇れ……。


 と突然、魔法陣の中央から、一頭の牝牛ちゃんがひょっこりと頭を突き出した。

 首を傾げてほほ笑む、その可愛げな顔。


 あっ、お、おまえは、ゆっ、優子ちゃん!


 人に怪我を負わせて廃用になった悲劇の牝牛ちゃん、あの優子ちゃんが、いま俺の目の前にいた。

 俺は優子ちゃんの半身を魔法陣から引き抜くと、さめざめと涙を流しながら頬擦りした。

 奇跡の再会だった。

 彼女を失った悲しみが、いま氷のように解けてゆく。

 

 その背後から、次々と姿を現す牝牛ちゃんたち。

 

 ああっ、春子、夏子、秋子、冬子、涼子、信子……。


 魔法陣から抜け出た牝牛ちゃんたちが、俺の周りに蝟集した。

 俺は一頭一頭の首に腕を回すと、その愛らしい頬にキスして回った。

 最後に桜子の身体をきつく抱擁すると、生き残った咲子を含めて、三十頭の牝牛ちゃんがすべて蘇ったことを確認した。


 やったあ! 牛さん牧場復活だ。


「さあ、みんな、下がるんだ」


 俺は牝牛ちゃんを背後に下がらせると、右手に自身の身長ほどもある巨大な炎を立ち昇らせた。

 万感の思いがこもった召喚魔法。

 さあ、天をも焦がす勢いで燃え上がれ!


「蘇れ、パトラ!」


 右腕をぐるんぐるんとぶん回し、青白い炎の渦を巻き上げながら、地面に力一杯叩き付けた。

 瞬間、地面が波のように揺蕩(たゆた)った。それは緩やかなうねりとなって、魔法陣を満たしてゆく。

 

 お願いだ、蘇ってくれ!


 俺は只一つのことだけを念じ続けた。

 パトラとの数々の記憶。モフモフの彼女を拾ったこと。二人でサキュバスの洞窟へ突入したこと。おねえさんと三人でピクニックへ行ったこと。ハーケン・クロイツァーの試合を観戦したこと。二人で青スライムに駄菓子をやったこと。そしてオークの集落で迎えた彼女の死……。

 俺は両眼をきつく閉じて、溢れる涙を堪えた。

 かざした右手の震えが精神の動揺を物語っている。

 悲しみが集中力を弱めたのだろうか、魔法陣を満たした青白いうねりは、徐々に波高を低くして、やがてさざ波と化して、平面鏡のように俺の顔を映し出した。


 ああっ、ああっ……。


 俺は言葉を失って立ち尽くした。

 

 召喚魔法に失敗した!? そんなバカな!


「パトラぁ~!」


 思わず魔法陣に頭を突っ込もうとして、いきなり何かとごっつんこした。

 

 イテテッ……。


 その反動でひっくり返った俺。

 額を押さえながら魔法陣を見ると、なんとパトラが……。パトラが痛そうに額を押さえて、魔法陣からひょっこりと首を覗かせていた。


「パ、パトラ!」

「ご、ご主人様!」


 俺はパトラに抱き付くと、そのまま魔法陣からズルズルと彼女の身体を引き摺り出した。

 二人で地面に抱き合ったまま倒れ込んだ。

 

「パトラ……」

「ご主人様……」


 彼女の頭をきつく抱きしめる。

 パトラが思わず呟いた。


「ご、ご主人様。息が苦しいです!」


 俺は構わずに抱き続けた。

 俺も彼女も二人して泣いていた。

 再会の感激が収まって、ようやく人心地つくと、


「パトラ、一体どこをさまよってたんだ? 召喚されたら、さっさと戻ってこい」

「じらしたんですよ。その方が期待が高まるでしょ?」

「そういうこと言ってるとだな、また黄泉の国に送り返すぞ」

「ごめんなさい、ご主人様」


 パトラが申し訳なさそうに小声で呟いた。

 俺はワンパン入れる代わりに、彼女の髪をぐしゃぐしゃにしてやった。

 パトラはそれでも嬉しそうに、俺の胸に顔を埋めた。


「よかったなあ~。秀一、パトラ」


 おねえさんも、田中さんも、オークの親分さんも、みんな、みんな、泣いていた。

 ただ一人、魔導士さんだけがパイプを燻らせながら、ニコニコとみんなの様子を伺っていた。

 俺はパトラの手を引いて助け起こした。


「お~い、大丈夫かぁ!」

 

 そのとき彼方から声がしたので振り向いた。

 見れば大鎌を手にしたジェハンさんが必死の形相で走って来るではないか。

 俺の前でゼイゼイと息を切らすと、こう尋ねた。


「ゆ、勇者は……、勇者の奴はどこにおるのじゃ?」


 俺は振り向きざま、上半身を起こしてこちらを見つめる勇一を指差した。

 じいさんが呆気に取られた表情で俺を見た。

 

「どういうことじゃ? お主、まさか勇者に勝ったのか?」

「……」


 俺は黙って肯首した。


「そうか……。よかったのう」


 じいさん、安心したのか、その場で腰を抜かしてへたり込んだ。

 俺はじいさんの肩に手をかけて、


「ありがとうございます。俺、嬉しいです」と礼を述べた。


 ピーッ!


 そのとき背後で指笛が鳴った。

 全員が振り向いた先に、愛馬の手綱を取る勇一の姿があった。

 

「命を救ってもらったようだが……、礼は言わぬぞ。秀一」


 あいつは愛馬に跨ると、冷めた微笑を俺に振り向けた。

 そこに見たものは友情、それとも敵意か。俺には判別がつかなかった。

 勇一は馬の背に揺られながら、スライムが原の彼方へと消えていった。


 魔導士さんが俺の傍らに立って、勇一の背中を見送っていた。

 俺は尋ねた。


「あいつは……、勇一はこの先どうなるんでしょうか?」


 魔導士さんがフーッと紫煙を吹いた。

 その眼は彼方の山稜に向けられていた。


「彼は己の欲望のために園児を傷付け、魔生物たちを虐殺したのだ。幸い人間に死者は出なかったので、大した罪にはならんだろうが、それでも罪は償わねばならん。それをしないというのであれば、この世界で、司法の及ぶ世界で、彼の居場所はなきに等しい。もう、誰も彼を相手にしないだろう」


 魔導士さんが俺を見て呟いた。


「わたしはね、秀一君。彼を、勇一を信じているのだ。そして君と一緒に来るべき脅威から街を守り、社会平和に貢献してほしいと思っておるのだ。まあ、彼としては、君を好敵手と認めて再戦を挑んで来るかもしれないが……。自身の敗北を認めたが故にね」

「じょ、冗談でしょ!」


 俺は嘆息して天を仰いだ。

 もしも再戦を挑まれたら、やっぱ尻尾を巻いて逃げ出すか。

 あいつと違って俺はエクスカリバーがなければ、ほんと只の人だから。

 俺は傍らに落ちていたエクスカリバーを拾い上げると、自身の顔が映った刀身を繁々と見つめていた。


 俺はこの剣に相応しい男に成れるだろうか?


 いや、絶対無理!

 とてもじゃないが、勇一のように厳しい修行に耐えられる自信がない。

 でもエクスカリバーの魅力は捨て難い。なんせこの剣一本で史上最強の勇者になれる便利グッズなのだから。

 聞けば勇一は年収億越えとのこと。俺もあいつを見習って億万長者を目指すんだ。


 棚ぼた勇者ここに誕生ぉおおおお~~~~~!


「お~い、神能君だね? 探したよ」


 そのとき彼方で声がした。

 見れば丘の道の上に自転車に乗った人影が……。久しぶりにご対面、あれは紙芝居屋のオヤジだ。

 オヤジは自転車から降りると、丘を下ってこちらへとやって来た。


「いや、探したよ。木賃宿を訪ねたら出て行ったって話だったから。それはそうとこれを見てごらん」


 オヤジは荷台に積んだ紙芝居を手で叩くと、


「ドラゴンピース。君の作品だ。その一の巻だ。とうとう出来たんだよ」

「ほ、本当ですか?!」


 すっかり忘れてた。

 紙芝居の台本作家。

 棚ぼた勇者も捨てがたいが、台本作家の道も捨てがたい。

 俺は王道を極めるべく牧夫を辞めて、剣の修行にでも旅立とうかと考えていたが、やはりここは一つ……。

 

「では皆さん、俺の記念すべきデビュー作、ぜひ一緒に見てください!」


 おねえさんが、パトラが、田中さんが、ジェハンさんが、魔導士さんが、そしてオークの皆さんが、一斉に拍手を送ってくれた。


「じゃあ、いつもの噴水公園まで」


 紙芝居屋のオヤジを筆頭に、その後を皆がゾロゾロと付いてゆく。

 俺がおねえさんと肩を並べて歩いていると、パトラが俺の腕を取ってしな垂れてきやがった。

 おい、離せよ。と言いかけて、俺はおねえさんの様子を伺った。

 

 まっ、いいんじゃね。


 そういう感じでおねえさんがウインクした。

 

 まっ、仕方ないか。


 俺は肩を落として嘆息した。

 そのときふと背後に殺気を感じて振り返った。

 するとそこには古新聞の束を持ったあのスライムが……。黄色い体色の単眼スライムが、大きな目ん玉で俺の背中を見つめていたのさ。

                                          (おわり)

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