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異世界最弱のニート様 敵は異世界最強の勇者様? 俺 死亡フラグ回避するために棚ぼた勇者めざします!  作者: 風まかせ三十郎


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第55話 決戦! マザコン勇者VSロリコン勇者

 俺の目に映る勇者の姿。

 足の甲に深手を負い、その痛みに耐え兼ねて、「母さん……」と呟きながら、さめざめと涙を流す勇者の傷付き疲れ果てた姿を見て、俺は憐憫と同情を覚えた。


 おいおい、おまえ、いったい何歳だよ? いい歳して母親に救いを求めてんじゃねえよ。ああ? なんなら俺が傷口に絆創膏でも張ってやろうか?

 俺は勇者に対して友情パワー(?)を全開させた。そのとき、


「さあ、早く、滅してしまうのです!」


 女神様が非情にも叫んだ。

 俺も叫んだ。


「嫌です!」

「な、なんですって?」

「あんなズタボロになった勇者と闘って、なんの意味があるのです? 我が手にエクスカリバーがある以上、俺も勇者の端くれ。あいつとは対等の立場で闘いたいんです!」


 好敵手(ライバル)の窮地に付け込むような真似は、ニート時代の俺には許されても、勇者としての俺には許されない。

 激闘の末に培われた友情は、たとえ女神様であっても断ち切ることは出来ないのだ。

 

 俺は友情という名の優越感をドヤ顔一杯に湛えながら、あらかじめ用意したソフト帽を目深に被り、レインコートの裾をひらひらさせて、魔導士さんが、「パイプに替えたから、残り物だけど君にあげるね」とただ貰いした葉巻を口にくわえてライターで火を点すと、ハードボイルド小説に出てくる脳筋探偵のごとく、粋な姿で勇者に接近した。

 勇者は地面に両手をついて、まださめざめと涙を流し続けていた。

 あいつ、古武道で心身を鍛えたなんて言ってたが、本当は精神面がかなり豆腐なんだ。それを自覚していたから、あんな恰好して無理にイキってたんだ。

 うん、惨めだ。惨めすぎる。

 俺は秘策を思い付いた。

 弱点はロリお母さん。そこを衝いてやつを倒すのではなく、やつを奮い立たせるのだ。至高を極めた対等の(おとこ)として、剣聖同士、力を尽くして(やいば)を交えるのだ。


「あっ、今、地の文に(やいば)ってありましたよね? それって鬼滅の……」

「もう、勘弁してください!」


 女神様が片手で顔を覆って嘆いた。

 あ~、あの人、本気で嫌がってる。

 またチャンスがあったら言ってやろ!

 

 俺は屈み込むと、地面に四つん這いになった勇者の肩に手をかけた。

 葉巻を吐き捨てると、ぽんぽんと肩を気安く叩きながら、

 

「よう、ハーケン……、いや、佐藤勇一、元気かぁ?」

「……」


 勇者は顔を上げようとしなかった。

 涙に鼻水まで交えながら、相変わらず母恋しと泣いている。

 いや、まったく情けない限りだぜ。こうなると惨めすぎて、ざまぁ以前の問題だ。

 この時点で勝利宣言しても良さそうだが、それで終わっては編集長が、編集者が、書店員が、そして何よりも読者が承知すまい。

 俺は勇者の耳元で、例の秘策を炸裂させた。


「おまえの母さん、出べそ」


 それは蚊の鳴くような小さな囁きだった。

 勇者の嗚咽が止まった。

 予想通り、その一撃はやつの心臓に突き刺さった。

 俺はもう一度囁いた。今度はちょっと大きめに。


「おまえの、か・あ・さ・ん、出・べ・そ」


 変な節が付いちゃったけど、効果はあったようだ。

 勇者が四つん這いの姿勢のまま俺を睨み付けた。

 それはあの底光りする三白眼。やつの足にダガーナイフを突き立てたときに見せた、あの狂気の双眼だった。

 ただ眼球だけは二倍増しで光ってたけど。

 そのとき俺は思った。ヤベ! パンドラの箱を空けちまった、と。

 勇者のやつ、どうやら足の怪我の痛みよりも、母親をバカにされた心の痛みの方がずっと堪えたようだ。

 でも俺だって。パトラや仲間を殺された恨みは忘れちゃいねえ。

 闘いの先端を開くべく、俺は最後のひと声を放った。

 

「お~ま~え~の、か~あ~さ~ん、出ぇ~べぇ~そぉ!」

「許さん!!!!!」


 勇者が絶叫と共にアロンダイトを水平に薙いだ。

 以前なら、その瞬間真っ二つにされていたはずだが、今の俺は違う。

 エクスカリバーの威光で、それよりも早く背後に飛び退くことができた。

 いや、ひと跳び五十メートルはいったか?

 勇者の目が驚愕で見開かれた。

 誰よりも俺自身が驚いた。

 これってもしかして俺TUEEE! っぽいよね?

 いや、異世界小説なのに、なんか使い慣れねえ単語使っちゃったから、作者さん、戸惑いを覚えたようで。

 エクスカリバーを握り締めて、長いレインコートの裾をひらひらさせて、悠然と佇む今の俺こそ、異世界史上最強の勇者様だ!

 俺は聖剣を脇に構えると、空高く飛翔すべく腰を落とした。

 

 今だ! そら、行くぜえええええ~~~~~!


「お待ちなさい! 秀一。それは大きな勘違いです!」


 女神様が出鼻を挫いた。

 俺はその場で足を滑らせて、(したた)鼻頭(びとう)を打った。

 

「痛てててて。この期に及んで、いったい何を?」

「あなた、自身をS級勇者に認定されたと思ってません?」

「えっ、違うんですか? エクスカリバーもらえたんだから、それこそがS級勇者の証なのでは?」

「あげたのではありません。貸与です、貸与。それはともかく、あなたをS級資格者に認定したわけではありませんから。そこんとこ勘違いしないように。あなたはエクスカリバーを持った、ただの小市民(パンピー)に過ぎないのです」

「そ、そんなぁ~」


 俺は脱力して肩を落とした。

 女神様が勇者を指差した。


「さあ、あれを見なさい、秀一。」


 絶望の淵から見上げれば、勇者の脇に何か文字が浮かび上がって。

 あっ、あれはステータス表示。


 HP9998 以下略

 武装解除↓

 HP5000 以下略


 ほとんどMAX状態。

 アロンダイトを手放した状態でも、戦闘力の半分を維持できるとは。

 なんか急速に自信を喪失してゆく感じだ。

 野郎、HP吸収で俺の自信を吸い取ってやがる。

 いや、希望を捨てるんじゃない、俺。

 女神様が今度は俺を指差した。

 すると目の前にステータス表示が。


 HP10003 以下略

 武装解除↓

 HP100 以下略


 あっ、なんかMAX微妙に超えてやがる。

 勇者をちょっとだけ上回ってる。やった!

 で、武装解除後の数値はと。


 突然、エクスカリバーがガシャリと音を立てて地面に落ちた。

 

 あっ、やば……、戦力ダウンだ。


 俺は慌ててエクスカリバーを拾い上げた。

 そしてHPが100→10003に回復したのを確認すると、素朴な青年の素朴な疑問を女神様に投げかけてみた。


「あの、女神様。10003対9998って、どのくらいの戦力差なんでしょうか?」

「もちろん、あなたの方が強い、ということです」

「ちょっと油断すると、なんか簡単に逆転負けするような気がするんですけど」

「まあ、油断は禁物ですよね」

「あの、武装解除後の素の数値なんですけど、100対5000って、その、人間同士の数値とは思えないほどの開きがあるんですけど」

「いえ、そんなことはありませんよ。人間に例えるならキングギドラと赤ん坊くらいの差です」

「いや、それって片方、怪獣でしょ?」

「では言い直しましょう。そうですね、サンダとガイラくらいですかね」

「あの、その二匹、いい勝負ですよね? 若干、弟の方が強い気もしますが。それに二匹とも怪獣ですし」

「……」

 

 作者のネタが切れたところで、そのタイミングを見計らったように、勇者が絶叫した。それは読者の気持ちを代弁していたのかもしれない。


「いい加減に茶番は止めろぉおおおお~~~~~!」


 怒りのままに力強く右足で踏み込むと、宙高く跳ね上がった勇者。

 そのままアロンダイトを上段に構えて、俺へ向かって急降下!

 だがその剣尖は虚しく地面を抉った。

 余裕で勇者の剣撃を躱す俺。

 それっとばかりに突き出した剣尖を、身を捻って躱した勇者、そのまま右肘を俺の顔面へ叩き込む。その肘を前屈みになって避けると、やつの胴目がけてエクスカリバーを叩き付けた。

 その大振りの刃が、勇者を後方へ大きく跳び退かせた。

 そこからアロンダイトを一振り、打ち出されたエネルギー波が俺目がけて一直線に伸びてくる。

 俺も後方へ大きく跳び退(すさ)った。

 アロンダイトのエネルギー波が、俺のレインコートの裾を掠めて後方へ消えた。


 彼我(ひが)の距離が五十メートルは開いたか。

 野郎のマントと、俺のレインコートが強風でぱたぱたとはためく。

 双方、相手の隙を伺って睨み合いが続く中、おねえさんが駈け寄ってきた。


「おまえが互角に打ち合えるのはエクスカリバーのお陰だ。さっきのステータス表示見たろ? 剣技だけなら天と地ほどの差があるってことだ。打ち合えば打ち合うほど、時間が長引けば長引くほど、剣技に劣るおまえの不利は明らかだ。だから……」


 おねえさんが怖い眼で俺の瞳を覗き込んだ。


「一撃で決めろ!」


 俺は無言のまま熱い闘志を燃え上がらせた。

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