第47話 武器屋のオヤジの心意気!
俺はおねえさんと共に武器屋へ急いだ。
おねえさんが扱いやすい武器を所望したのだ。
「今時、魔法の杖なんて流行らねえからな。それに代わる武器が欲しいんだ」
「武器って。魔法使いに武器が必要なんですか?」
「魔法使うにゃ、集中力が必要だから。指先や杖から炎を出すより、剣尖から出した方が意識が集中できて威力が増すんだ」
「なるほど」
武器屋の戸を潜ると、いきなり店のオヤジさんがカウンターから血相変えて飛び出してきた。そしておねえさんの手を取ると、
「あなた、S級治癒師のフェイ・フェイリアさんですよね?」
「ああ、そうだけど」
「孫を、孫を助けてくれてありがとうございます」
オヤジの双眼が涙で曇った。
おねえさんに何度も何度も頭を下げた。
俺とおねえさん、いったい何事かと思わず顔を見合わせた。
聞けば、おねえさんが病院で治療に当った重体の園児が、なんとオヤジさんのお孫さんだったそうだ。
おねえさんが微笑みを向けた。
「それでお孫さんの容態は?」
「ええ、順調に回復に向かってます。医者も二週間もすれば退院できるだろうと。これもあなたのお陰です」
「いや、ほんと、それを聞いて安心したぜ」
照れ臭そうに笑ったおねえさん。それでもとっても素敵な笑顔。
いつかおねえさんが言ってたっけ。
治癒魔法が人から一番感謝されるって。
いろんな魔法が使えるのに、治癒魔法しか使わないのは、その魔法だけが今の彼女に生き甲斐をもたらすからだ。
オヤジさんがようやく俺に気付いた。
「お客さん、確かこの前来た?」
「ええ、あのときはお世話になりました」
「すごい切れ味だったでしょ? そのナイフ」
オヤジさんが、俺の腰のベルトに差したダガーナイフを見た。
「えっ? ええ、まあ……」
俺は言い淀んだ。
なぜって切れ味を試す前にダガーナイフを紛失してしまったからだ。
でも二万円のアウトレッド品で、すごい切れ味もないもんだと思うけど。
オヤジさんが笑った。
「そのダガーナイフ、実はうちのひいじいさんの持ち物でね。家宝なんだ」
「えっ、家宝? 確か二万円の安物のはずじゃ」
「ひいじいさん、魔導士やってたんだけど、それ、護身用に使用していたものなんだ。それを託すに相応しい若者が現れたら渡してほしいって、そう遺言してね。まあ、うちに置いといても宝の持ち腐れだから、二万円で譲ってあげたんだ。超お買い得品だよ」
「そうだったんですか。そんな大切な物を」
まさか、そんな価値あるナイフだったとは。
いや~、なくさないでよかった。
見つけてくれた咲子には感謝しなければ。
それにしてもこのオヤジさん、俺を買い被り過ぎてるよね?
そんな宝刀、俺に使いこなせるわけがない。
「俺、自分が剣技に優れた人間とは思えませんので。これ、お返しします」
俺がダガーナイフを差し出すと、
「いや、いいから納めてくれ。たぶん、俺の目に狂いはないから」
そう言ってダガーナイフを押し返してくる。
えっ、なんだって?
俺はまじまじとオヤジさんの顔を見た。
俺の目に狂いはないって、それってもしかして俺が宝刀を持つのに相応しい人物という意味だろうか? まさか! 冗談を言ってるとしか思えない。
俺とオヤジさんの間で、返す返さないの押し問答が続いた。
そこへおねえさんの鶴の一声。
「もらっておけよ」
「……」
「どうせ勇者と一戦交えるんだ。素手じゃどうにもならねえだろ? いただいておけ」
オヤジさんが素っ頓狂な声を上げた。
「勇者と一戦交えるだって? いったい、なにがあったの?」
「実は……」
俺が勇者との決闘の経緯を手短に話すと、オヤジさん、真っ青な顔して呟いた。
「信じられない。まさか勇者がそんな非道なことを」
牛さん牧場で起こった悲劇が勇者の仕組んだ事件と知ったとき、オヤジさんは信じられないものを、たとえるなら幽霊でも見るような目付きでおねえさんを見た。
「でも事実だ」とおねえさん。
「て、ことはだよ。うちの孫に怪我を負わせたのは……」
「そういうことだ」
真っ青だったオヤジの顔が、怒りの為に真っ赤に変色した。
勇者が真犯人であることを知って、怒り心頭と化したのだ。
「お客さん、勇者と戦う武器が必要なんだろ? 遠慮なく言ってくれ。どれでもタダでくれてやる!」
「じゃあ、レイピアを」
「レイピアか。ちょっと待ってな」
オヤジさん、店の奥へと引っ込むと、一振りのレイピアを持ってきた。
なんの装飾もないシンプルなデザイン。
なんかあっちのケースに飾ってあるレイピアの方が高価で切れ味鋭そうなんだけど。
オヤジさんが手を振って拒絶した。
「ダメダメ、あれは観賞用の装飾品だから。見栄えはいいけど実用性はないんだ。造りも脆いし。その点、こちらは無駄なもんが一切ない。実用性一点張りだ」
おねえさんがレイピアを手に取って試し振りしてみる。
「うん、軽いな。これなら女のわたしでも使えそうだ。これ、借りるぜ」
二人してレイピアとダガーナイフの礼を述べると、オヤジさんが目を瞬かせて呟いた。
「お願いしますよ。必ず、必ず孫の仇を討ってください」
俺とおねえさん、無言のまま力強く頷いた。




