第04話 和風でレトロ それでも異世界?!
「よ~し、ごくろうさん! おまえの仕事はここまでだ」
集積所に到着したところで、俺はようやくリヤカーの重荷から解放された。
足腰ガタガタで、思わずその場にへたれ込んじまった。
あのあと、荒野をさすらい、森をさまよい、街をめぐり。
スライムやらエルフやら人間やらから古紙を回収しまくり、その総重量は四百キロを突破。
さすがの彼女も気の毒がって、最後には二人でリヤカー引いたんだけど。
いや、疲れたのなんのって。こんなに疲れたの、人生初めて!
彼女は集積所のおやじと何やら話し込んでいたが、収めた古紙の対価を受け取ると、
「じゃあ、また、よろしく」
頭に被った三角帽子をちょこんと上げて、さよならした。
「新しい男、逃がすんじゃねえぞ!」
おやじの下種な笑い声。
「ちっ、これだから中年は。おやじさんこそ、今の奥さん、大切にしろよ。前みたいに逃げられねえようにな」
「大丈夫だって。今の俺ゃ、カミさん一筋だから」
「嘘つくんじゃねえよ。このタコ!」
まっ、あのおやじ、赤ら顔で禿げてるから、見た目、タコそっくりだけど。
彼女、俺のところへ来ると、今もらったばかりの札を差し出した。
「おい、受け取れよ。今日のバイト代だ」
えっ、だって……。
「あの、リヤカー引いたのは治療費代わりでしょ。だったらお金は……」
「おまえ、転生者だろ? それも今日来たばかりの。当然、無一文だよな? そういう異世界新卒者には優しくしてやるのが、ここの仕来りなんだ」
「……」
「だからまあ、遠慮せずに受け取っておけ」
俺は泣いた。生まれて初めて泣いた。
というのは嘘なんだけど、親からもらう小遣いや、親戚からもらうお年玉よりも格段の重みを感じたよ。
で、よくよく見れば……、あら懐かしや、諭吉さん。
この人の顔だけは、まあ、皆さんも知ってる通りのいい歳したおやじなんだけど、なぜか心の底から癒されるんだよねえ。
「じゃあ、遠慮なくもらっておきます」
まあ、汗水垂らしてリヤカー引いたんだから、正当な権利、といえなくもないし。
「おまえ、腹空いてんだろ? どうだい、一緒に飯食うか?」
「ええ、ぜひ!」
言われて気が付いたんだけど、いや、マジで腹減ってるわ、俺。
いつ以来かなあ~、お腹がグウと鳴るの。
集積所の前の一膳飯屋に入ると、おねえさん、元気よく大声で料理を注文したね。
「ビール二つに串カツ! 適当に見繕って!」
「ほら、飲め」
「おねえさん、どうぞ」
「ではおまえの新たなる旅立ちを祝って乾杯~!」
「乾杯~!」
仕事のあとの一杯は格別!
あっ、やべ、労働を肯定しちまった。
ニート王には禁句だよ、その言葉。
生ジョッキ一杯空けたら、もう酔いが回ってきちゃって。
おねえさんが美しい女神様のように見えるよ。
俺、女神様には恵まれなかったけど、最初の仲間には恵まれたみたいだ。
あっ、それ、RPGに例えたらの話ね。
「今日はありがとうございます。命まで救っていただいて」
「まあ、気にするな。ほんの罪滅ぼしだから」
「えっ?」
「……いや、なんでもねえよ」
おねえさん、そっぽを向いて視線を外したような。
なんか気になるんですけど。
勘定はおねえさんが払ってくれた。
なんか至れり尽くせりで悪い気がするけど。
でも俺の所持金一万円じゃあ、奢ります、とは言えなかった。
「じゃな、達者で暮らせよ。縁があったら、また会おうぜ」
えっ!?
行っちゃうんですか? 俺を置いて。
異世界に来たばかりの、異世界初心者の俺を置いて。
いきなりぼっち勇者確定なんですか?
RPGなら、おねえちゃんは最初の仲間になってくれるはずでしょ?
俺、不安なんですけど。寂しいんですけど。ちょっと、涙がちょちょぎれるんですけど。
あっ、俺の想いが通じた!
彼女、振り返ってくれたよ!
「あっ、そうだ。今晩泊まる所なんだけど、そこの角を曲がった先に木賃宿があるから。あたしもたまに利用してるから。安いから、まあ、行ってごらんよ」
木賃宿って、な・ん・で・す・か?
宿というからには宿泊施設なんだろうけど。
先走る不安を抑え切れねえ。
「じゃあな、つれえことも多いと思うが、まあ、頑張れよ」
一人ポツネンと取り残された俺。
ああ、せめてネットカフェでもありゃ、少しは楽しい一夜を過ごせるんだろうけど。
あるわけねえよな。異世界にさ。
ほんと、こんな世界に飛ばされて喜んでるやつの気が知れねえ。
ネットがないってことは、ネトゲがないってことだし。
いや、この世はまったくの闇だらけ。
あっ、お月さん、照ってきた。
暗い夜道に一筋の光明が……。俺の行くべき道を照らしているような。
突然、閃いたよ!
異世界だっていいところはあるんだってことを。
俺、大切なこと忘れてたよ。
ここが余りにもあっちの世界に似ていたから、基本、異世界であることを忘れてたんだよねえ~。
あるじゃありませんか! ニートに最適化された素晴らしい職業が。
勇者! もう、これ一択!
なんか目の前がパッと開けてきたよ。
今晩は木賃宿とやらで休息して、明日から、取り敢えずギルドでも尋ねてみっか。
木賃宿の玄関を通ると、右手に帳場があって、そこに若い美人のおねえさんが座っていたから、ちょっとラッキー。
「一晩、部屋をお願いしたいんですけど」
おねえさんが眠たげに顔を上げた。
「あんた、見ない顔だねえ? ここは初めてかい?」
「転生者です。今日、来たばかりの」
「個室、それとも大部屋?」
「個室で」
「じゃあ、1000円、前払いで」
「あの、朝飯は?」
「うちは自炊だから。食事の提供はできないね」
おねえさんに個室へ案内される途中、破れた障子の隙間から、大部屋の中を覗くことができた。
想像通り、八人ほどの土木作業員の皆さんが、胡坐を組んで酒を飲んだり、寝っ転がってラジオに耳を傾けたり、鼾をかいて寝ていたり、思い思いの時間を過ごしていた。
で、俺が最初に思ったことはテレビがねえ! ってことだ!
テレビがなきゃ、TVゲームもできねえし、アニメも視ることができねえ。
闇は深まっていくばかりだ。
俺は念のため、おねえさんに訊いてみた。
「あの、テレビは?」
「はあ、テレビ?」
「あの、四角い箱に絵が映る……」
「ああ、紙芝居のことね。ええ、来るわよ。週に一度くらい。でもおにいさん、そんな歳にはみえないけど」
紙芝居、観に行くか。どうせ暇そうだし。
「あの、ちょっと、つかぬ事を伺いますが、こっちの世界に勇者っていう職業、あります?」
「勇者になって、どうするつもりだい?」
「いえ、魔物退治して、お金を稼ごうかと」
「まあ、あるにはあるけどねえ。余り勧められないねえ」
「……?」
俺は畳に寝っ転がって考えた。
勇者が勧められないだって?
どういうこと? みんなの憧れの職業なんでしょ?
なんか腑に落ちないけど、まあ、危険な仕事だから、資格とか適正とか、いろいろあるのかも。
眠っ……。
今日は目一杯働いたから、今夜はぐっすり眠れそうだ。
あぅ、また禁句言っちまった。
労働を肯定するなんて、けっ、ニート王の名が廃るぜ。
夜更かしなんて、できそうにもないし。
まあ、明日の風は明日吹く、だ。
と、いうわけで、おやすみぃ~。




