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異世界最弱のニート様 敵は異世界最強の勇者様? 俺 死亡フラグ回避するために棚ぼた勇者めざします!  作者: 風まかせ三十郎


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第28話 将棋盤 それは人間とオークの架け橋

 なんで気に入られたのかはわからないが、俺はまたもオークのバーベキューパーティーに招待された。

 まあ、手ぶらで行くのもなんだから、缶ビール買って、それを荷車に積んで持ってったんだけど。

 

 オークの森に近づくにつれ、漂ってきましたよ、香ばしい匂いが!


 俺は荷車曳いてるパトラに訊いた。


「おまえ、オークの肉食べるの、初めてか?」

「ええ、実は前から食べてみたいと思って。なんか、とても楽しみです」


 なんか口から涎垂れ流しちゃったりして。

 いや、野生の本能に目覚めてるよね、こいつ。


 オークの集落に到着してみると、--おっ、やってる、やってる! 森の広場で一頭の丸焼きオークを囲んで、オークたちがジッと焼け具合を見守っている。

 あるいは死者に対して礼を尽くしているのかもしれない。

 丸焼きにされるのは位階の高いオークらしいから。


 俺はビールの箱を抱えて、長老を探し求めた。

 群れの中で自由に行動できるのは、顔パスならぬ臭いパスだから。

 人間の体臭レベルなら一度嗅げば忘れないそうだ。


 長老にとりあえず挨拶しとこうと思って、杖を目印に探しているんだけど、どこを探しても見当たらない。

 しょうがねえから傍らのオークに尋ねたら、そいつはこんがりと丸焼きにされたオークを指さした。


 ちっ、長老おおおおお~~~~~!


 聞いた話によると、昨夜未明、「おお、不吉な星が見える」そう言い残して、お亡くなりになったそうだ。


 会ったのは一度きりだけど、気さくに肉を食べるよう勧めてくれて。

 オークのイメージを一変させる人だった。

 

 俺は心の中で合掌したよ。

 その後は飲めや歌えの大騒ぎ!

 配ったビールのおかげで酔っ払いが続出、あちこちで騒ぎ出す者、寝込んじまう者、挙句の果てには喧嘩する者まで。

 驚いたよ、オークってアルコールに弱い体質だったんだ。


 パトラも同様らしく、傍らでビール缶片手に酔っ払って眠り込んでいた。

 まっ、美少女形態で黙って寝ている分には可愛いやつなんだけど。

 

 新しい長老が挨拶にやって来た。

 でっぷりと太って、なかなか貫禄のあるオークだ。

 牛乳瓶の底のような丸眼鏡が御愛嬌。


 五十音図を持ち出して、ひずめで文字を指し示して、意志の疎通を図るのだが、それを読むと、どうやらオークたちは製作した木製品の販売を俺に委託したいとのこと。

 荷車に積んで売り歩いてほしいとのことだが、さすがにそれは無理と断ると、ならば信頼できる人を紹介してくれという。


 オークも代変わりして、人間並みに商売を考えるようになったのだ。

 強靭な精力に任せて人間を強姦するオークのイメージは、もはや過去のものだ。

 

 わかりました。こころあたり、さがしてみます。


 俺は手帳にそう走り書きした。

 俺に顔見知りは少ないけど、こんなとき頼りになるおねえさんがいる。

 商売柄、いろんな所へ顔を出す人なので、あるいはその手の商売人を知っているかもしれない。


 商談がすんだところで、新長老はお付きの若いもんに何やら持ってくるよう指示を出した。

 で、持ってきたものは、なんと将棋盤と駒。


 聞けば、ゴミ捨て場に捨ててあった物を拾ってきて、見様見真似で製作したらしいのだが、俺が見た限り、元の物(オリジナル)となんの遜色のない出来栄えだった。

 なるほど、木の皿やフォークだけではなく、こんな物まで売る気だったとは。

 オークの商魂、恐るべし!


 長老が将棋の相手を所望してきた。

 将棋の規則を知ってる? って訊いたら知ってるとのこと。

 拾った将棋本で勉強したそうだ。

 いや、熱心なことで。俺よりずっと強そうだ。


 まあ、俺も駒の動かし方くらいは知っているが、それ以外は初歩的な戦法しか知らないので、まともな勝負にならねえ気がする。

 そういえばこの長老、牛乳瓶の丸眼鏡といい、全体から醸し出す風格といい、どことなく昭和の名棋士、大山康晴名人を彷彿とさせる。


 まさか、大山先生、死後、オークに転生したとか?

 いや、絶対にねえな、それは。


 で、必敗覚悟で勝負を挑んだんだけど。

 

 まで三十一手で、先手、神能アマ六級の勝ちとなりました。

 

 記録係の人の声が脳内に木霊した。

 俺は短手数で呆気なく勝利した。

 人間の尊厳を辛うじて守った感じだ。


 長老がひずめを立てて、もう一度と再挑戦してきた。

 もちろん、俺も受けて立つ。

 盤上に人間とオークの威信を賭けた戦いが再び開始された、はずなのだが、--まで二十九手で、神能アマ一級の勝ちとなりました。

 第一局よりさらに短手数で、俺は勝利の凱歌を上げた。

 長老の腕が屈辱のせいでプルプルと震え出した。


 長老がひずめを立てて、もう一度と再々挑戦を挑んでくる。

 二連勝が心にゆとりを生じさせたのか、俺も鷹揚な気分で受けて立つ。

 そうして俺は数十局を闘い、連勝街道をひた走った。


 月日は流れ、俺はいよいよ名人挑戦の権利を得た。

 ここに辿り着くまでに、いったいどれほどの勝利を積み重ねてきたのか。

 そんな感慨が胸裏を過るほど、俺と長老は対局を積み重ねたと思う。

 そのときになって、ようやく気付いたんだ。

 このオーク、勝つまで俺をお家に帰さない気だって。


 体感時間は十年、でも実際の時間は三時間くらいか。

 俺は思ったね。

 こうなったら負けるしかねえ!

 さっさと負けて、夕暮れ前にお家に帰るしかねえって。


 で、思い切り手を抜いて指したんだけど。

 負けましたよ。見事に。三八六手で。

 そんな長手数の将棋、今まで一度も指したことねえ。

 いや、ほんと、疲れた。

 荷車曳いて、町と牧場の間を百往復するくらいに。


「いや、長老さん。お疲れ様でした。今度また、勝負といきましょう」


 長老も初勝利にご満悦のようで、笑顔でウンウン頷いた。

 俺は傍らで眠りこけているパトラの肩を揺すった。

 

「おい、起きろ! 帰るぞ!」

「--!」


 突然、パトラが跳ね起きた。

 なにかに驚いた感じなのだが、その驚き方が尋常じゃない感じで。

 俺は思わずその場でひっくり返ったよ!

 

 カッと見開かれた目が恐怖に打ち震えている。

 彼女が虚空を指さし叫んだ!


「来る! やつが来る! 不吉な星が。早く、早く逃げて!」


 それっきり彼女は意識を失って、その場に崩れ落ちた。

 

 オークたちが騒めき立った。

 長老に訊いたら、--前の長老が身罷(みまか)ったとき、同じ事を言い残したそうだ。

 前長老の残留思念みたいのが、その肉を食べたパトラに憑依したのだろうか?

 いや、疑問は尽きねえ。


「いや、みなさん。お騒がせしました」


 俺は気絶したパトラを抱きかかえると、荷車に乗せて、オークの森を後にした。

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