第24話 賢者資格 それは人生の枯れ尾花
俺は今、悩んでいた。
実はひと月前、賢者資格を取得するために試験受けたんだけど。
頭と手首足首に電極付けて、いつものように牝牛ちゃん相手に搾乳して、脳波と心電図計ったんだけど。
人間の女の子そっくりの巨乳を揉みしだいてるにも拘わらず、脳波にも心音にも乱れは確認できず。
「これは凄い! 若干二十歳の若者が」
この結果には、さすがの試験官も驚いていたね。
で、めでたく賢者資格認定されたんだけど。
おい、〇上。俺はおまえに言いたいよ。
おまえ、転生したとき、スキルをいくつももらったろ?
挙句の果てに賢者スキルって。
はっきり言って贅沢!
俺なんかなぁ、転生ふた月目でようやく賢者資格ひとつだよ。
三〇、俺はおまえに声を大にして言いたい!
スキルっていうのはなぁ、地道にひとつひとつ積み重ねていくもんなんだ。
時間かけて、勉強して、試験受けて、合格して、ようやく花開くものなんだよ。
いいな、忘れるんじぁねえぞ!
で、俺は取得した賢者IDカードをニヤニヤしながら眺めていたんだけど。
そこで気付いちまったんだ。
賢者資格って、いったい何に使えばいいんだ?
役所で訊いたら、映倫って知ってる? 映画を倫理規定に従って検閲する組織なんだけど、そこのポルノ映画部門に若干の需要があるそうだ。
エッチな映画を検閲するのに、いちいち興奮しちゃいられねえ。ってことなんだけど。まあ、それは牧場の仕事に飽きたら考えるとして。
そこで俺は閃いた!
サキュバス退治だ!
これこそ真の賢者への登竜門!
サキュバスって、男にエッチな攻撃しかけて生気を吸い取る魔生物なんだけど。
賢者資格さえあれば、そんな攻撃に臆することなく、サキュバスを仕留めることができるはず。
俺はさっそく町の武器屋に出かけたね。
まあ、行ってみてわかったんだけど。
武器って高いよねえ。
俺の予算二万円。
壁に掛かった武器やガラスケースに入った武器は総じて数十万はする代物だ。
中には一千万、二千万なんてのもある。
まあ、それら高価な武器は銃把や柄に宝石を象嵌した装飾用、つまり実用性のない飾り物らしいんだけど。
店のオヤジが、「予算は?」と訊くので、「二万円」って言ったら、「う~ん、二万円ねえ」と難しい顔して、いったん店の奥へ引っ込むと、二本のダガーナイフを持ってきた。
「う~ん、その予算だと、まあ、こんなもんかねえ」
「それ、いくらです?」
「大きい方が二万円。小さい方が一万五千円。大きい方は型落ちだから、その値段なんだ」
「じゃあ、一万五千円の方」
「おにいさん、それ、いったい何に使う気?」
「その、サキュバス退治に」
「おにいさん、それ、日用品だよ。そこいら辺のホームセンターで売ってる刃物と同じだよ」
「えっ、だってここ武器屋でしょ?」
「まあ、ぎり、硫酸アリや塩酸グモや硝酸コオロギくらいは倒せる代物だけど」
「あの、南蛮モグラ倒せます?」
「ああ、倒せるよ。やつの長く鋭い爪の一撃をかわしさえすれば」
「ええ! 南蛮モグラって実在するんですか!」
「いるよ。なんだ、にいさん、知らなかったのかい?」
「……」
南蛮モグラって、ジイサンの想像上の魔生物だと思っていたが。
店のオヤジがガラスケースの一角を指し示した。
「まあ、悪いことは言わないから。サキュバス相手なら、最低でも、そこの三十万クラスの物を勧めるよ」
さすがにこの小さなダガーナイフじゃ勝てねえか。
「じゃあ、二万円ので」
「う~ん、お客さん。お金をケチると命が危ないよ」
オヤジが心配そうに呟いた。
店の外へ出るとモフモフが駈け寄ってきた。
街中では人間形態でいることが多いのだが、今日は十代前半くらいの少年の恰好してやがる。
「ご主人様、どうでした? なんかいい武器買えました?」
俺は立ち止まって、少年形態のモフモフを睨み付けた。
「その前にだ。おまえ、なんでそんな恰好してる?」
「ええ、いけませんか? この格好」
「前にも言ったろ? 俺の前では美少女一択。それ以外の人間形態は認めねえって」
「でもおねえさま方には受けるんですよ、この格好。ショタっていうらしいんですけど。ぼくも満更じゃないなって」
あの野郎、テへへ……、なんて照れ笑い浮かべやがった。
てめぇー、気持ち悪ぃんだよ!
「いいか、もう一度言っておく。俺の前では美少女一択。しかも年齢は十四歳から十八歳までだ。わかったな?」
「ええ、それって極端に範囲が狭くありません? そんなことじゃ一生、女性の真の魅力に目覚めることはありませ……」
俺はショタモフモフの胸倉を掴んだ。そのときの俺の目は怒りのせいで血走っていたはずだ。
「てめえ、童貞モフモフのくせに、なかなか素晴らしいご高説垂れるじゃねえか?」
「いえ、だから、これはぼくが言ったんじゃなくて、世の妙齢の御婦人方の意見を代弁しているだけで」
俺はショタモフモフを突き倒した。
「痛っ、なにするんですか! このか弱いぼくに」
「いいか、おまえの人生における選択肢は二つだ。美少女モフモフになるか、それともただのモフモフになるかだ。さあ、さっさと選択しろ」
ショタモフモフは半べそを掻きながらポンと弾けて、美少女モフモフに変身した。
まっ、これならいいか。
俺はその足で職安へ急いだ。
求職ではなく、特殊能力者登録するためだ。
受付で対応してくれたのが、転生手当てのことを教えてくれた、あのオヤジだった。
向こうも俺のこと覚えてたらしく、
「そうか、今は牧場で働いてるのか。よかったねえ」と言ってくれた。
「で、今日の用事は?」
「技能資格取ったんで、特殊能力者登録したいんですけど」
俺は賢者資格のIDカードを提示した。
受付のオヤジ、少し驚いたようだ。
「賢者資格かぁ、その歳で珍しいね」
賢者に求人があるかどうかはわからない。
それが本職になるか、アルバイトになるか、それとも一銭にもならないか。
その答えはこれから向かうサキュバスの洞窟の中にある。




